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一万打&サイト二周年記念リクエスト
しかし互いの時間はまた動き始めた。これからはどうなるか、ふたりにさえ未知数だ。
執筆:2011/07/13 更新:2011/08/10




to:志乃
sb:おはよう。
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最近、都合つけられなくてごめんね。
それに加えて悪いんだけど、今日インできる?
一緒に行ってほしいエリアがあるの。

エリアワー ドは『――……


 久しぶりの、メール。
俺はすぐにあの世界へ降りていった。

「ごめん、待たせちゃったね」

 タウンのカオスゲート前で待つこと十数分。
 見慣れたPC、 黒い呪療士の志乃がインしてきた。さきほどから彼女はこの世界、ザ・ワールドに変な行動をしていた。ハセヲがイ ンしたときには呼び出しのメニューに『Online』表示が付いており、メールを出してみると「もう少しだけ待ってて 」と返信が。しばらくすると彼女はログアウトしてしまって――今、またログインし直してハセヲの前にいる。

「別に大丈夫だけど、なにしてたんだよ?」
「それはエリアで話すから……ちょっとアイテム補充し てきていい?」
「? ギルドの倉庫にストックあるから、やろうか?」

 言ってから「ギルドメ ンバーのアイテムでもあるんだから、流しちゃダメじゃない。職権乱用だよ」と笑いながら優しくも軽く咎められる と思った。しかし。

「……本当? お言葉に甘えても、いいかな?」

 彼女らしくないセ リフでさらに深まる疑問。言ってしまった手前なのでカナードに寄り、回復と補助アイテムを志乃へ渡す。

「ありがとう。助かった」

 PTを組んでみると、志乃の所持金がだいぶ減っていた。これでは 『ショップ どんぐり』で顔をきかせてさらに値下げされても、エリアにでる適正なコンディションといえるほどの アイテムをそろえられないだろう。初心者よりはマシという程度だ。回復・補助系の消費が激しいのが見て取れた。
 彼女も呪療士でスキルもあるが、アイテムで回復したほうが素早いし合理的な場合がある。入院期間があっ たとはいえ、このゲーム歴が長いだけに不安があるのだろう。

 いろいろ問いたいところだが、エリア に着くまでは何も聞かずにやり過ごす。彼女が言うといったら約束は守ってくれるし、それまではきっとどんなに詰 問したって、うまく流されてしまうことをハセヲは知っていたから。




 到着したエ リアはなにかのイベント用なのか、変わったダンジョンだった。草木によって作られた壁が奥まで続いている。道は 入り組んでいて――そう、まるで迷路のよう。
 マップを確認しようにも表示されておらず、設定をかえよう としてもできない。そういう仕様の、まさに迷宮エリア。

「しかもここ、PTの上限がふたりなの」

 ザ・ワールドは3人PT推奨なはずだが制限があるということは、これはCC社主催のイベントエリアという ことが察しがつく。
 そして思い出されたのが期間限定の「痛みの森」に続き、披露されたものがあったとい うこと。ずいぶん前から開催されていて、意識が回復してから志乃を誘おうと思っていたのだが折り合いが付かず予 定は未定になってしまった。いくつかのワードの組み合わせによって、最奥のアイテムが変わるとBBSで聞いていた ので、何種類かのモノのひとつだろう。

「俺もここ誘おうとしてた」
「……ごめんね、いつも断 っちゃって」
「別にいいけどさ。奥のアイテムがほしいわけ?」
「そう。もう何度挑戦したかな……リ アルで生け垣みるだけで少しげんなりする」

 しみじみとした口調でそう言われてしまって唖然とする しかない。そんなにこのエリアへ挑んだのか。

「もしかして、さっきまでここにいたのか?」
「 ……どうにかひとりで行けないかなって。ちょっと無理しちゃった」
「呪療士がソロは無謀だって」
「 わかってたよ。でもソロで入ったのは今日が初めて」

 訝しげな視線をハセヲは送るが、そのまま彼女 は歩きだしてしまう。仕方がなく並んで歩く。

「で、誰とPT組んでたわけ?」
「……妬いてる? 」

 モンスターがいた。ハセヲが不意打ちでけしかけ、大ざっぱに双銃と大鎌でなぎ払い、数秒で藻屑 と消える。レベルカンストのハセヲには少し物足りない相手だ。
 武器をしまって振り向き、不満そうな表情 を向けたあと、そのまま先に進んでいってしまう。そんな姿を棒立ちのままので黒い呪療士は微かに笑う。

「朔望」
「……は?」
「望くんと一緒に挑戦してたの」

 少し駆け足で追いつく と彼の知る魔導士の名前をあげられた。双子の姉弟の朔と望。その弟と一緒だったというのだ。試され、それに乗っ てしまった自分が少し恥ずかしくてハセヲは髪を掻く。

「……仲……よかったんだ」
「私は『大 好きなハセヲにいちゃん』の知り合いだもの。すぐ仲良くなれたよ」
「……どっちにしても魔導士と呪療士じ ゃキツいな」
「だよね。でもふたりでどうしてもクリアしたかった」
「……望どうしたんだ?」

「風邪ひいちゃったみたいで」心配そうにつぶやいてから「今日でこのエリア閉鎖なの」とぽつりとため息 。

 目標は最奥のアイテムの獲得。それが手に入ればいい。風邪で寝ていなければいけないのにインし ようとする望を気遣い「絶対に私がとってくるから」と約束したそうだ。

「今までがんばってきたこと 、無駄にしたくないから。……反則だってわかってるんだけど、ふたりでダメだったのに私ひとりじゃ手も足もでな くて……だから、ハセヲにお願いしたの」
「なんで反則なんだよ。別に……そういう助っ人なら断らねぇよ」

 というより、志乃に加え望の頼みを無碍に断ることなんて、ハセヲにはありえないことだ。
  ちょっと気になるのはハセヲの誘いを断ってまで、望と執着しこのイベントに参加していたこと。
 とても良 い子で幼い望に嫉妬するなんて大人げないとは思うが、気になるものは気になる。

 奥になにがあるの か訪ねてみても「行ってからのお楽しみ……じゃあ、ダメ?」とちょっと企んだふうに微笑まれては、なにも聞けな くなる。

 志乃が何度も通っているので最初の道こそあまり迷わずに進むことができ、望とではたどり 着けなかった奥まできても彼女のマッピングによりどうにか最低限の戦闘と時間で進んでいく。戦闘はレベルマック スのハセヲが敵をけちらしていけば、後方で志乃が回復補助に回ってどうにかなった。しかし奥の道から次々とモン スターが出てきたりして連戦続き。ひどいときは頭上から飛行系のモンスターまで姿を現した。油断大敵、と心して 進んでいく。

 そして道が大きく開けた。やっとボス戦と、気を引き締める。装備をチェックし減った アイテムを志乃へ。そしてフィールドに近づき、辺りを確認する。モンスターの姿は見えない。

「ここ だけ、芝が枯れたみたいに砂地になってるね」
「少し異色だな……グラ変えてごくろうなこった」
「そ ういう言い方、やめたほうがいいよ」
「わかってる。……まだイベントモーションが発生しないな」

 姿が見えないなら仕方がない。そのまま足を踏み入れる。すると地響きがおこった。お出ましか、とふた りは戦闘態勢に入るもまだ敵の姿が捉えられない。地響きが収まった――と同時に足場が吹き飛ぶ。

「 きゃっ……!」
「なんだとっ?!」

 ふたりの間を裂くように地面から現れたのは、見たことも ないモンスターだった。カーソルをあてると表示された名前は「サンドヒル」。彫刻のような顔と腕、あとは頭に磨 かれた鋭い岩のようなものが微かに見えるが、他はこの地面を吸い上げ、身体からザラザラと砂をまき散らしながら 威嚇のような咆哮をあげた。
 今まで相手にしてきたのが魔獣系、植物系、鳥獣系のモンスターで、ボスはラ バドードーやカオスエンプレスあたりではないかとハセヲは踏んでいたのだが、完全な不意打ちとモンスターに戸惑 いを隠せない。

「ハセヲっ、くるよ!」
「!!」

 しかし志乃の回復スペルの光に 意識を取り戻すと、双銃を構えた。まずは様子を見るため間合いを開けながら撃ち込んでいく。志乃も攻撃スペルを 唱えつつダメージを回復を適切かつ素早くアイテムでこなしていく。未帰還者として目覚めてから数週間経ったのみ だが、戦闘の勘を取り戻しつつあるようだ。それがわかって頭を切り替える。補助は任せ、彼女の壁になるよう怒濤 の攻撃を畳みかける。志乃のレベルはそこまで高いものではないので、短期戦で終わらせるしかないからだ。

「補助を頼んだ! 志乃!」
「任せて。攻撃はお願いね!」

 それから数十分戦闘は続 いたが、息のピッタリなコンビネーションに加え、モンスターは珍しい外見なだけで攻撃が一撃一撃重いが単調。そ のうえスピードもないため、どうにかHPを削り終えれば派手なエフェクトとともに色を無くして砂に還っていった。

 その砂から覗かせた宝箱。

「お目当てのもんだな」
「うん……開けていい?」
「そのために来たんだろ」

 志乃が手をかざすと、パコっと軽い音で宝箱は開き、画面で確認し ているであろう志乃がくるっと向き直ってきた。

『大剣・覇王樹 を手に入れました』


 え、と思う間すらなかった。開かれた画面に表示された文字を疑う。志乃に『プレゼント』されたのだ。
 彼女は笑っていた。

「私が目覚めて日付を確認したとき、一番最初になんて思ったと思う?」

 混乱していてよく考えがまとまらず無言のハセヲをそのままに、志乃は続ける。

「『あ、ハ セヲの誕生日過ぎちゃってる』って思ったの」
「……えぇ?」
「遅くなったけど誕生日、おめでとう。 それは朔望と私からのプレゼント」

 言葉に詰まってしまう。誕生日なんて『事件』まっただ中で気に も止めていなかった。自分が生まれた日だというのに、思い出したのは数日が経っていたぐらいだ。

「 目が覚めてしばらくして望くんに話しかけられたの。私が花が好きなの知ってね」

 そのうち『ハセヲ にいちゃんの誕生日プレゼントなにか送りたいの』って相談されて、と彼女は楽しそうに話す。

「で、 このイベントが主催されるの教えてもらって、挑戦することにしたの」
「……な、なんでこのエリア?」
「最終獲得のアイテムが、みんな花の名前だから。大剣・覇王樹。ハセヲにぴったりだって3人の意見で……」
「え、3人?」
「私は朔望と、って最初に言ったよ。……このエリアの武器の名前、教えてくれたの朔だも の」

 その言葉を聞いて開いた口がふさがらない。まさか朔まで祝ってくれるとは天地が裂けようとも ないと考えていた。さっきから驚きの連続で思考がまとまらない。
 ただひとつ、言えることはどんなに混乱 していてもわかってた。

「あ、ありがとう」

 志乃が笑う。どういたしまして、と語りか けるように。むずがゆくなって、視線を逸らし装備を変える。今まで使っていた大剣より能力は劣るものの、なかな か物攻が高く付属したアーツも特殊。レア度も高いが、ハセヲにとってはそんな評価がなくても特別なものとなった 。

「ハセヲが、がんばってくれたから、私はここにいられる」
「ん?」
「ハセヲのそばに いて、祝える。それってとっても素敵なこと」
「……」
「……ごめんね、ハセヲ」
「……なんで 、謝るんだよ」
「あんなことになっちゃって」

あんなこと。

その一言だけでわかっ てしまうほど、ツラい記憶は一瞬にして蘇る。この世界で得たもの、無くしたもの。お互いの胸に突き刺さる痛みを 、ふたりは共有していた。

「……いいよ、志乃が戻れた。それだけで」

 志乃はなにも言 わなかった。笑っているのか悲しんでいるのか微妙なラインの、少し苦しそうな面もちでいた。距離をつめ、しっか りと真っ正面に立つ。そしてうなだれるように、彼の肩に額をあてた。思わず身を堅くするハセヲ。
昔も、こ んなことがあった。Δ 隠されし 禁断の 飛瀑――アルケ・ケルン大瀑布で、ふたりの傷みの元凶が、姿を眩ました ころ。近くにいるのにぎこちない距離間。そのまま、互いに刹那の時を刻んだ。そのあとだ、しばらくして志乃が未 帰還者になったのは。
 そのことを思い出して、また彼女がいなくなってしまうような不安感が心をかき乱し た。とっさに腕が志乃の背中に回った。どこにも行かないように、つなぎ止めようとするかのように抱きしめたかっ た。でも触れる寸前で躊躇してしまう。

 志乃は、自分の隣にいてもきっと、あの傷みの元凶――オー ヴァンを心の片隅において、それを思い出を大事に大事に愛おしむだろう。そんな彼女は遠いように思えた。
 しかしよく考えれば、ハセヲだってそうなのだ。その痛みを抱いて、これから一生、鮮烈な記憶を保持して生きる だろう。トラウマといってもいい。志乃にとってもハセヲにとっても、オーヴァンは特別だった。ふたりの特別は、 違う意味をはらんでいるかもしれないし、いないかもしれない。それぞれ言及はしなかった。
 それにハセヲ は言ったのだ。今、『志乃が戻ってきてくれただけでいい』と。

 片腕だけで志乃を抱き寄せる。志乃 が軽く息を飲んだのは伝わったが、そのまま身を任せてくれていることに安堵した。彼女の体温を身体が記憶する前 に、優しく引き離す。

「俺の誕生日祝ってくれるなら、笑ってくれ」

 自分がお手本を見 せるかのように笑顔を浮かべようとするが、碑文使いの彼には苦笑だけが刻まれていた。

 ぽかんとし た表情の志乃が、笑う。

 おめでとう。ありがとう。

 そう言いあって、笑いあって、好 きあって、傍にいるのに遠いふたり。






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リクエスト:ハセ志乃
覇王樹
江戸時代に渡来。サボテンのこと(和名は仙人掌)。
花言葉は「情熱」「燃える心」「秘めた熱意 」「枯れない愛」「内気な乙女」など。

ハセ志乃という要望なのにこんな感じですみません。私が書く両想いなふたりの姿はこんな感じです。
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