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April Fool
執筆:2012/04/01
修正:2010/04/16
「ハセヲ、ぼくと一緒に逃げよう!!」

 グランホエール内を疾走していたカイトはハセヲの姿を捉えると急ブレーキをかけ止まり、勢いよく手を取るとそんなセリフを繰り出した。

「……ハァ?」

 対してネットスラムの住人よろしく(°Д°)と顔文字になってしまいそうなほどポカーンとした阿呆面をかますハセヲ。しかしカイトは真剣そのもので、ぐいぐいと手を弾いてくる。

「なに、いきなり」
「今は説明してる時間がおしい!」
「ちょ、ちょっ、まてまて、いきなりヘンな発言しといて……ああ、わかった」

 なにか合点がいったのかため息をつく。
「今日、エイプリルフールだから、おどかそうって魂胆だな。そうはいかねぇぞ」

 得意げにハセヲは言ってみると、カイトはグッと息を詰まらせ歩みを止める。やっぱりそうか、と確信するものの、目の前の朱色の勇者の様子は少しおかしい。顔色が悪く、目を泳がせ汗をだらだらと流している。秘密にしていたことがバレて悔しがるとか、イタズラを失敗して慌てるといった種類の焦燥感が見えないのだ。
「ぼくも今日がエイプリルフールだから、って思ったんだ」 ポツンと消え入りそうな一言の意味を理解できなくてハセヲは首を傾げる。そうすれば、カイトは周りを気にしつつ言葉を続けた。 「……これ、読んで」

 渡されたファイルを開くと、それはテキストデータだった。カイトと欅の名がある。会話のログらしい。


欅:カイトさーん!
カイト:!
欅、どうしたの?
欅:実は今日、折り入って相談があるんです
カイト:ぼくにできること?
欅:これはカイトさんにしか頼めないんですよ!
カイト:?
欅:実は、前々からその腕輪のこと気になってたんで、ちょっと調べさせて欲しいな、って
カイト:……うーん、これは調べてどうかなるのかな
欅:女神についてのこと、少しでも情報が欲しいんです……ダメですか? ついでに腕輪によってどのような効果が現れているのかまとめたいのでカイトさんのPCボディもイジらせてほしいんです♪
カイト:え″
欅:どうですか?
カイト:……いや、それは……ちょっと……ごめん
欅:……カイトさん
カイト:な、なに
欅:今日の日付
カイト:……
欅:……
カイト:……あー、なんだエイプリルフ ールかー!
欅:ビックリしました?
カイト:もう、本当に驚いたよー!やだなー!
欅:♪
カイト:そっかそっかー……なら、ちょっとイジるなんて言わずに、好きなだけ改造しちゃってもかまわないんだよー? ハセヲだってもっとカッコよくなりたいんじゃないかなー? なんて(笑)
欅:ホントですか!
カイト:…………え?
欅:いやぁ許可がもらえたら早速とりかかろうと思って準備は万全なんですよー! というか、そうですよね、ハセヲさんのメンテナンスのデータも欲しいですし、あとで連れてきましょう! ささ、善は急げ。行きましょうか!
カイト:え、いや、エイプリルフール、だよ、ね?
欅:そうですよ。嘘という発言が嘘です
カイト:……え、そん……えっ!?
欅:ということで、僕のラボまでご案内しますねー♪
カイト:ちょっと、ま、欅、あああーっ ……


 以下、カイトが死にものぐるいで欅の元から脱出してきたログが書き込まれていた。 一通り読み終わるとハセヲはカイトを見据える。カイトもハセヲを見つめた。同時に息を大きく吸う。一瞬の間をとってから

「お前バカなんじゃねぇのぉぉっぉおッ!!」
「本当ごめえええぇぇんんんんんんんッ!!」
  周りを気にすることなくそれぞれ怒号と謝罪を力の限り大声で叫んだ。欅は月の樹が解散し暇をもて余したからなのか、それとももとよりしていたのかは定かではないが、PCを見せてもらうという名目で協力をあおいだ(というか口車に乗せられ捕まった)者たちの改造を頻繁に行っていた。 「Xthはチートみたいなものですから今さらちょっとイジられても大差ないですよ♪」 と笑顔で言い分を語る姿はヘタなマッドサイエンティスト並みに恐ろしいと被験者たちは口々に言う。最近はシッグザールPCに興味が移っていたので平和だったのだが、今まで逃げていたカイトに狙いが定まった。そしてカイトの軽率な冗談でハセヲもターゲットとなれば、たまったものではない。

「つーかこんなとこでしゃべってる場合じゃなくね?!」
「だからぼくはさっきからそう言って……!」
「カイトさーん!ハセヲさーん!」
 朗らかなソプラノボイスが彼らの名前を呼んだことにより、心臓が口から出るんではないかというほど大きく脈打つ。背後に同時に振り返えれば、龍のそれを模したような角を持つ、幼さをにじませた少年が手を振りつつ駆け足ふたりの方へ向かってきていた。

「そんなところにいたんですかー! もう、探しちゃいましたよー♪」

  彼らには欅のあどけない笑顔が、ドス黒く見えていた。 冷や汗を流す彼らは早々に少年に背を向けスタートダッシュをきる。怖くて後ろは振り向けない。ただ進行方向だけを見据えて走る続けた。グランホエールがある限り、彼らふたりの居場所は欅に筒抜けなのだが、そんなこと気にとめるより前に前にへと逃げることに執着する。

  ――その後、二人三脚でもしているのではないかというほど息ぴったりのふたりが目撃され噂となるが、のちに彼らがどうなったのかは、誰もが口を閉ざした。

エイプリルフール当日に勢いだけで書きました。ハセカイにすべきかどうかで悩んだけど、ギャグだしハセ+カイということに。

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