「あ゛ー」
「……なんでそんな格好してんだ」
突如、カナードに現れた蒼炎のカイトはいつものツギハギ……ではなくサンタクロースの衣装に身を包んでいた。象徴的な髭もプレゼントの入った袋もないので軽いコスプレにしか見えないのだけれども。
「やぁハセヲくん!」
「!?」
そんな蒼炎のカイトの後ろから頭をのぞかせたのはR:1時代、世界を救ったという伝説を残す以上に暗黒歴史を後世に伝え続けられるだろう、勇者カイト(以下カイト)その人。蒼炎のカイト(以下蒼炎)と同じくサンタクロースの衣装の彼なのだが、色は赤ではなく漆黒。
「……な、ななな、なん……!?」
「ハセヲくん、知らない? 黒サンタだよ! ドイツを中心とした伝承なんだけど赤サンタ、みんなの知るサンタクロースの双子でその後ろに隠れてついてくるんだ」
急展開と骨の髄に染み込む恐怖が混ざり、状態の把握ができずにどもるハセヲを気にもとめることなく何やら説明を始めるカイト。そして赤黒いシミが飛び散る大きな袋を取り出すとニコッとスマイル。
「で、動物の頭や内臓の入った袋で悪い子にお仕置きしちゃうんだぞ、えっへん!」
「『えっへん!』じゃねぇええええ!!」
反射的に距離をとって後ずさるハセヲは気がついた。いつもいるはずの口うるさいデス★グランディの姿がどこにもないことを。
「ま、まさか、さっき動物の頭とか内臓って……!?」
「さすがのぼくにもそんなエグい真似(笑)できないからグランディたちをそのまま袋詰めしたよ。そのへんはご心配なく」
「『たち』って言いやがった!『たち』って! 他のギルドからも連れ去りやがった! つか『(笑)』ってお前なら普通にそんなエグいことするだろぉっ!!」
「そんなっ……最初から人を疑ってかかる悪い子なハセヲくんはお仕置き決定じゃないかっ!」
「白々しいっ!! 最初から殴る気まんまんだったろが!!」
言い合ってても埒があかない、そう踏んで出口に走る。ここでログアウトしてもいいのだがメニュー画面を開いている間に隙をつかれ何か(バットステータスとかデータドレインとかデータドレインとかデータドレインとか)されると厄介である。ここを出てカイトが追いかけてくる僅かなラグで落ちる方法をとることにしたのだ。しかし。
つるっ――
床が滑った。予期しないハプニングだったので見事に前方へ倒れ込みべしゃりと顔面から強打。痛みより先に鼻を突いた臭いにハセヲは顔をしかめる。
「黒サンタは悪い子の部屋に臓物を撒き散らすこともするんだよ。良いものなかったからR:1時代のアイテム『煮詰めた胆汁』だけど我慢してね」
「碑文使いの俺には完璧こっちのほうがキツいわぁぁあッ」
五感があることが災いし表現しがたい強烈な臭いにつられ吐きそうになりつつもまだ諦めようとはせず出口を這いつくばってでも目指すハセヲ。
「(つか臓器いったら『のろま牛の胃袋』とかあんのに、絶対確信犯だって!マズい、いろんな意味で殺される前に落ちねぇと今日という一日が最悪の日になr)うげッッ!!」
追い打ちをかけるように彼の首根っこを掴んだ人物、蒼炎がギョロギョロしたいつもの瞳で冷や汗を流すハセヲを見下していた。よく見れば彼のサンタの衣装もいつの間にか黒く変化している。
「最終的には悪い子を袋詰めして川に流すことになってるから、マクアヌで晒し者になってもらうけど文句ないよね(笑)」
「大ありだ! 俺で遊んで楽しいか! なんでこんなことしてんだよぉぉ!?」
「あったり前だろ! 楽しいさ! めちゃくちゃ楽しい!!(嫌だな、そんなわけないじゃないか。ハセヲくんに今日というイベントを楽しんでもらいたいんだよ!!)」
「建前と本音が逆になっとるわ! 無理にやってるだろ! うぜぇぇぇ!!」
「ははは、まぁ冗談はさておき」
どこが冗談なんだよ! というツッコミはグランディ入りの袋をそれぞれ構える無表情の蒼炎と笑顔のカイトを目の前にして声になることはなかった。
「……や、やめ……ッ!」
やっと出た言葉も対照的なふたりのカイトの前にはまったくの無力。絶望からか軽く泣きっ面のハセヲへ「そういうば、まだ言ってなかったね」とカイトは笑顔のまま清々しく言い放った。
「メリークリスマス★ ハセヲくん!」