「いらない」
家に上がり、もらったひなあられを口に放りながら目の前にある八段の雛壇を見上げた。上品かつ濃い紅の敷物の上に飾られた人形たち。
ひなあられを食べることを拒否した潤香もそれを見つめていた。この甘い菓子が白米同様に虫みたいに見えるからだろうかと見切りをつける。米が虫なら、さしずめひなあられは繭といったところか。そう考えながらも口へと一定間隔に運ぶ自分の神経の図太さには軽く笑えた。
食べれるものは、食べる。好き嫌いは今までしたことがない。見た目、味にこだわりはない。みんなが不味いと言うものもまったく問題なく食べれる。空腹自体が嫌いだ。
「甘いのに」
「……」
「……すごいね、雛人形」
「うん……小さいとき」
「ん」
「これ、嫌いだった」
わからないでもない。幼いころに見る日本人形に可愛さを見いだすのはなかなか無理だと思う。
昔、母が買ってくれたお雛様とお内裏様だけの雛人形。母方の親から贈られるのが慣わしのようだけど、絶縁されていた母は自ら働いたお給料をどうにかやりくりさせ、こじんまりとしたそれを買ってくれた。それを見てもあまり良くは思わなかった……としか覚えていない。可愛くもないこんな人形なんて欲しくなかった。母がそれで好きなものを買ってくれたほうが有意義だと子ども心に思っていた。
「ひいひいおばあちゃんが、おばあちゃんに買ってくれたヤツらしいんだけど」
「ずいぶん年代物」
「そう。飾られるたび、その部屋には近づかなかった」
「どうして?」
「……気持ち悪くて」
潤香はとても神経質なところがある。真っ直ぐ見つめてくるいくつもの細長い目人形の視線は、潤香には耐えづらいものだったのかも。だからと言って彼女のことだからそんな本音もこぼせず、胸のうちに溜めていたのだろう。
「こんなの、飾っとく意味がわからなかった」
「そうだね」
「三日我慢すればいいだけだったけど、部屋に入らなきゃいけないときはできるだけ見ないようにしたし……でも」
潤香の顔に目を向ける。雛壇から視線をそらさない横顔。
「この歳になって改めて見ると……お雛様って綺麗だね」
表情はあまり変わらないが、その声からは感情がうかがえた。潤香の表情は能面みたいに乏しいけど、心は枯れていない。怒りで荒れ狂ったりもするし、悲しみでドロドロに濡れたりもする。それを表に出すことが不得意なだけ。 それは少し、昔の私に似ている。
そういえば、あの雛人形は父が処分してしまった。母を思い出すから、と。
今見たら、私は潤香が言うように……もっと違う見方ができたかな。もっと大切に思えたかな。
……なんて。
「……潤香のウチはちゃんと三日でしまうんだ。早くお嫁にいけるね。ウチはけっこう過ぎてたからなぁ」
私も父も興味なく、少しおっちょこちょいな母は忙しさも相成って一週間ほど雛人形が放置されるのは当たり前だった。『長く飾ると嫁に行き遅れる』という話しを聞いたときは驚いたけど、もとより自分が家庭につけそうにない性格は自覚していたので、まったく気にしなかった。
「そんなの迷信」と潤香はやっと視線を雛人形から外してこっちを見た。切れ長な目元には凛々しさがある。
「まぁ人それぞれだとは思うけどね。でも、潤香は綺麗だから」
「……べつに、男とかキライだから関係ないし」
「もったいないなぁ」
潤香は私と違って女性的で美人だ。 黒くて艶やかな長い髪やメリハリのある身体のラインなんてすごく女の子。きっとどんどん女性らしくなる。
「……甘いもの食べたい」
ひなあられを食べる気になったのかと思って、袋を差し出すと「そんなのいらない」と払われてしまった。近づく唇。あたたかい舌。肌のキメ細かさや影を落とす長い睫毛とかに魅とれつつ、なにも考えないように努める。できるだけ自分を空っぽにする。
それでも心のうちに、ぽつりぽつりと思いは泡のように弾ける。
潤香は私とは違う。男の人を愛せる。
私に向ける感情なんて、一時の気の迷いだ。
視線のすみにお雛様が映る。
あぁ、潤香は着物を着たら圧巻なほど美しいだろうなと考えた。あのお雛様みたいに飾っておきたい、とも。
しかし私は
(愛でることはできても、愛せない)(……大丈夫。本気になんて、ならないから)
「桃の節句は堂々百合を妄想していい日」なんて思いたったのが悪かった。しかしなぜこのふたり。
(A.アウラの関係者だからというだけの理由)
人間不信に陥ってた潤香と(どういったわけか)知り合った杏。彼女が男性を恋愛対象に見れないと知ると、なついていた潤香が好き好き言い出して過剰なスキンシップをしてくる。それに対して杏は強い拒否も漬け込むこともせず、スルー状態。
必要とされているのは嬉しいし、潤香になにかしてあげたいという気持ちから傍にいたい、とは思ってる。
なんで付き合わないかというと、建前上は潤香を後悔させたくない。本音は後に「同性と付き合った」ということを汚点として思われるのがツラいからと、だいぶ自分本意。
そういう思いを杏は今までしてきたんだよ、付き合ってる相手が急に「結婚する」とか「やっぱり男がいい」とか「同性だしお互い失うものはないでしょ」とかいろいろ言われてるのを、知ってるんだよ。とか。
もはやハックじゃなくてオリキャラではなからろうか。リアル捏造しすぎである。
反省。
しかしたぶんこれからもマニアック加減はかわらない←
(A.アウラの関係者だからというだけの理由)
人間不信に陥ってた潤香と(どういったわけか)知り合った杏。彼女が男性を恋愛対象に見れないと知ると、なついていた潤香が好き好き言い出して過剰なスキンシップをしてくる。それに対して杏は強い拒否も漬け込むこともせず、スルー状態。
必要とされているのは嬉しいし、潤香になにかしてあげたいという気持ちから傍にいたい、とは思ってる。
なんで付き合わないかというと、建前上は潤香を後悔させたくない。本音は後に「同性と付き合った」ということを汚点として思われるのがツラいからと、だいぶ自分本意。
そういう思いを杏は今までしてきたんだよ、付き合ってる相手が急に「結婚する」とか「やっぱり男がいい」とか「同性だしお互い失うものはないでしょ」とかいろいろ言われてるのを、知ってるんだよ。とか。
もはやハックじゃなくてオリキャラではなからろうか。リアル捏造しすぎである。
反省。
しかしたぶんこれからもマニアック加減はかわらない←