「平気だっての。親帰ってるわけないんだから」
少し空気の肌寒いなか、電車を待つ二人。もう星と月が美しくはっきりと見えるほどに、空は闇に濃く彩られていた。それもそのはずでThe Worldで頻繁に会ってはいたがオフでは久しぶり、ということで話しが弾みもう十時を切ろうという時間になってしまっていたのだ。
成人している
「……ごめん、気が回らなくて」
眉を下げて失態を詫びる。長身がヒドく小さく見えるほど申し訳なさそうな様子に、亮はため息。
「大丈夫つってるだろ。制服じゃないだし補導されるなんてヘマはしない。家も駅に近いんだから寄り道なんてしねぇし、真っ直ぐ帰る」
と言い切る。キツい物言いだが、彼を安心させる為の彼なりの優しさを込めたセリフであった。それを感じとって戒仁はやっと笑った。
『――……番線に列車がまいります。危ないですから――』
ホームに流れるアナウンス。そしてすぐに夜の奥から光と猛風を帯びて電車は現れて、停車。乗り込み、車両の出入り口で亮は内側、戒仁はホーム側で対峙する。
「じゃ、今日はお疲れ様でした」
「お疲れ。……次会えんのいつだろうな?」
「うーん……まぁ
そっか、と内心少ししょげる亮だったが顔にはけして出さない。出発の合図の音が響いて、戒仁は黄色い線の内側まで下がる。発車まで見送るつもりなのかそれ以上動く気配がない。
「忘れ物ない? 帰り道、気をつけてね。変な人に絡まれないように……」
「心配しすぎ。小学生じゃあるまいし、田舎にでも帰る肉親の見送りかっての」
「う……ごめん」
だけど、と付け加えて嬉しそうにはにかむ。
「亮みたいな弟、欲しかったかも」
そんな一言に思わず数秒考えをまとめるため固まる亮。
「……俺は戒仁みたいな兄貴はいらないな」
そうニヒルに口元だけ吊り上げてみれば、戒仁は「……頼りない兄だろうけどさ」と唇を軽く突き出してむくれてみせた。
「……でも――」
真面目に考えて言いかけたその途端、電車のドアが空気を吐き出すような音を上げて閉まった。
ぱちくりと目を丸くした戒仁だったが、すぐに笑って『またね』と口パクで伝えながら手を小さく振った。彼と同じような顔した亮だったが応えるように手をかざす。電車がゆっくりと動き出し始めても、戒仁はそのまま手を振り続けていた。
「……戒仁みたいな兄がいたら……」
彼が見えなくなったあと。投げ出したセリフの途中を繋げるように微かに囁く。
「……俺は、もう少し丸い人間になれたかもしれねぇな」
小さい時に寂しいなんて思わなかっただろうし、性格が少しは素直だったかも、とか考えたわけで。そんな弱気な想いが頭に浮かんだものだから、思わず鼻で笑ってしまう。愉快そうに頬をゆるめつつ、電車の窓枠に収まる夜空を眺めながら彼の前で先ほども思ったことを今度は
やっぱ、いらねぇけど。
(あんなに、愛おしく思う戒仁が血縁者だったら辛すぎるし)