「ハセヲってさ」
「……名前」
「あ、ごめん。亮ってカッコいいよね」
学校帰り、夕食を近くのファミレスで取っていたふたり。
日が沈み、食事時となった今はホールに人があふれ、会話、食器がカチャカチャと当たる音、と騒がしい。
「……いきなりなんだよ」
「いや、私服がさ。今日は制服だけど」
有名進学校のブレザーを着た亮。大学帰りの戒仁はいつもの私服だ。
「制服もだけどぼくは中高、ずっと学ランだったから、ブレザーそうやって着崩すの憧れてたし」
「……俺も中学は学ランだったけど」
「え、見てみたいな。中学時代のハ……亮の写真。サマになってんだろうな」
「ぜってー見せない」
仏頂面でウーロン茶を一口。なぜ不機嫌そうかと言えば、見ただけで年齢の差を感じるからだ。本当は着替えてきたかったが、教師に呼び出されて待ち合わせ時間ギリギリになってしまったのが運の尽き。
そんなことで苛立ってしまっている自分にさらに苛立つ悪循環にうんざりとしていた。せっかくカイトと会っているというのに。
「つーか、急にどうしたわけ?」
「うん? いや、ただ見てて思っただけだよ。カッコいいなって」
「服が?」
「服も」
それはそうだろう、と亮。そりゃ、普段は戒仁に会うとき、それ相当に意識して服を考えているわけだから。
「……戒仁は、若干冴えないな」
いつも自然体でいる戒仁への、若干、当てつけ的な言いぶんだった。
「そうなんだよ、センスがないってよく言われる」
戒仁はいつもこうだ。だいたい何を言われても否定しない。向けられたモノを吸収し、それを受け入れる器を持ってる。……なにを言われても噛みつこうとする亮と違って。
彼自身は「主体性がないだけだよ」
と笑うが、そうじゃない。戒仁は間違ったことはしっかりと指摘する。それは相手を思っての発言。
「無難な感じ」
亮には戒仁が海みたいなやつだと思っている。穏やかに波を打ち、何事も受け止めるような大らかさ。ときには荒々しく波打って、今までとは別の面を見せ、惹きつける。
もっと知りたくなる。もっと近づきたくなる。
その思いとは逆に。
俺のように染まればいいのに、とさえ、思う。
「……俺が見たててやろうか」
「え?」
「服。安めで種類の幅あって、そこそこ着まわせるブランド何個か知ってるから」
「いいの?」
「戒仁の時間あれば、だけど」
「ぜひお願いしたいな」
なんの疑いもなく微笑む戒仁。亮の複雑な胸の内なんて知らない。
好きな人に自分の色を残したいと思うのは、おかしなことではないでしょう?