告白。葛藤。
ライNot騎士団。
――お兄ちゃん、私、好きな人ができました。
――最初は学園に迷い込んだ、ただのブリタニア人だと思っていたんだ。
――記憶喪失のせいか、みんなと距離をおいて、いつも無表情で、愛想のない人だと思っていました。
――でも日々が過ぎていくなか、言葉数も増え表情も自然に記すようになってから。
――私と同じで、ブリタニア人と日本人のハーフだと知って――……彼を、とても身近に感じるようになりました。
「カレン」
「!」
彼を目で追っていたら、自然と目を向けて、名を呼んだ。内心慌ててしまう私。
「な、なにかしら?」
「今日、調子は大丈夫か? 悪いなら無理はせずに僕に言ってくれ」
いつもそうやって気を使ってくれるのが嬉しいような、恥ずかしいようなで。
「うん。大丈夫」
思わず視線を下げてしまう。彼の綺麗な顔を見つめたいのに。
「あ、…ライ…!」
「どうかした?」
勇気を出して、顔を視線を再び交わす。青い瞳は優しく私を映してて、言葉が詰まりそうになる。
「…そのっ…今日サンドイッチ、作ってきたの。これから中庭で一緒に食べない…?」
「本当に?もちろん是非」
瞳が細められて、口元に微笑。自然と胸が高鳴る。
「少し、意外だな」
「え?」
中庭の人目が気にならない場所にランチョンマットを敷いて、二人で腰を下ろしていた。青空の下、飲み物で持ってきた紅茶の匂いも広がっていく。風も心地よい空模様だった。
「いやシュタットフェルト家の一人娘が、料理をするなんて」
「……」
突然のその言葉に、少しだけ胸が痛んだ。シュタットフェルト…そう、私はこの学園では『シュタットフェルトの御令嬢』なのだ。
「あ、すまない…!」
私の表情が曇ったのを受けて、彼が慌てている。
「無神経なことを…本当にすまない」
「ううん」
彼の表情も曇らせてしまって、その罪悪感のほうが私にはツラく。いつもみたいに気丈に振る舞うようなつもりで、すまし笑いをしてみた。
「やっぱりおかしいかしら、こんなお嬢様?」
「そんなことはない!家庭的で素敵だと思う」
嘘ではないと言いたそうな堅実な物腰と声色にさえ、私の心臓は大きく跳ねた。仕草の一つ一つが、私を魅了してならない。
「そういう人のほうがライは、好き?」
思わず、聞いてしまった。本当の、素の私は料理なんて滅多にしないから。ガサツだし、とてもじゃないが女らしい、とは言い難い。
その質問に彼は一瞬ポカンとして、それから徐々に柔らかく微笑を携えていく。
「カレンだから、好きかな」
「っ」
顔から火が上がりそうなほど熱くなるのが分かった――誤魔化すようにサンドイッチを手にとって咀嚼する。視線の端に彼の笑顔を映っていた。
「カレンは本当に可愛い」
「!」
あえなくサンドイッチを吹き出しそうになる。その言葉は、彼の声のまま頭の中で止まる所を知らず反響し、流れてく。
「も、もう!冗談やめて、誰にでもそう言ってるんじゃないのっ」
「冗談なんて…君だからこその、本心だよ」
さきの人懐っこそうな笑顔とは真逆の――真剣で、熱帯びた眼差し。息が詰まって、クラクラする。
「…カレン、僕は君のことが好きだ。愛している」
「――!」
直球な告白。彼が少し視線を外して、頬を赤らめた。
「こんな得体の知れない僕が、君を好きになるなんて間違っているかもしれない…でも、この気持ちに嘘も偽りもない」
私も、いつの間にか貴方が好きになっていた。
分かってた。気がついてた。ああ、でも――。
「貴方は『カレン・シュタットフェルト』が好きなんだわ…」
「え?」
「わ、私が…『カレン・シュタットフェルト』だから好きなのよ!」
貴方が好きと言ってくれたことが、嬉しい。涙がこぼれそうなほど、嬉しくてたまらない。でも、でも…!
「家柄なんて関係ない…!」
「違うの!…貴方は…『カレン・シュタットフェルト』しか、知らないから…」
学園で偽りの『カレン』を演じる私しか見ていない、知らない彼はきっと、『紅月カレン』に幻滅するわ。
黒の騎士団の、日本人の『カレン』に。
彼は困惑した、揺らいでいる瞳で私を見ていた。
ごめんなさい、ライ……詳しく説明できる意気地も虚勢も、私にはない。
そんな彼が、私の手を握った。温かくて大きな手に包まれて、酷く残酷な心境に苛まれる。
「自身すらわかっていない僕だ。確かに君のことを何も知っちゃいないのかもしれない」
「……」
違うの、ライ。私が見せていないの、隠しているの。
貴方が、そう自分を責める道理なんて本当はないのよ。
「でも、これから知っていきたいよ。君を」
「――――」
「『カレン・シュタットフェルト』じゃない…君のいう『カレン』を知って、受け入れていきたい」
「――そ、んな…」
思いがけない言葉たち。魔法のようだ。紡いでいく貴方の声は私に不思議な魔法をかけていく。
言葉なんてあてにしてはいけないのに――信じたくなる。
「僕は、君を好きになりたい。君を好きになるチャンスをくれ…この気持ちは迷惑かな?」
優しく、力強さを伝えてくれる手からの温もりが、はらえなくなる。
見つめる不安そうな紺碧の瞳はただ、真っ直ぐで――とても綺麗だった。
――ナオトお兄ちゃん。今私、好きな人がいます。『カレン・シュタットフェルト』で、恋をしてしまいました。
こんなにも私を想ってくれる彼は『紅月カレン』も、愛してくれるのかしら――?
ねぇ、お兄ちゃん。私…どうしたらいいのかな――
Wimp!
(あぁっ、もう!)(こんなの『私』らしくもない!!)