NOVEL  >>  Short story  >>  SSS 
おはなし、しましょ
  ...アルビレオ&リコリス
苦痛以外のなにものでもないんだ
  ...エンデュランス&ハセヲ(+志乃)
だからちょーだい。*リアル捏造
  ...シラバス&ハセヲ
最果てない、絶望に抱かれて。
  ...ミア&エンデュランス(エルク)
あの手は、俺に
  ...オーヴァン&ハセヲ


















「アルビレオ」

 リコリスが幼くもハッキリとした声で俺に『囁く』。視線を向けた。女子にとり囲まれ人形のように服をとっかえひっかえ着せかえられて、遊ばれている。

「楽しいか、リコリス」

 俺も囁き返した。誰にもこの声は聞こえていない。ときどき俺たちはこうやって囁き合う――昔、まだR:1で管理者として、そしていちユーザーとしてリコリスの運命イベントをクリアしようとしていた、あの時のように。
にっこり微笑んでこくんと頷く彼女。そうか、と俺がもらすと「似合う?」と訊ねられた。今のリコリスの姿を上から下までゆっくりと観察。ゴシックロリータ姿だった。

「似合わない」

 可愛いと思うし、ここは嘘でも是と答えるべきなんだろうけど、素直にそう思った。
 立ち上がり、女子たちの間を縫って彼女のもとにたどり着けば、隣にあった噛む飾りに手を伸ばす。赤い花だ。髪に差し込み、さらさらとこぼれる赤と白のコントラスト指ですいた。

「君には赤がよく映える」

 白い肌、自然な色づかいの唇と頬、金色の瞳、グラデーションがかった先の赤い髪。君には赤だ。燃えるような赤。リコリス。赤い花。
 リコリスが手をかざすとグラフィックがいつもの素朴で、しかしとても美しい赤色の服に戻る。髪を飾る赤い花はそのままだった。にっこり、彼女自身が花のような笑みを灯す。
 リコリスを抱き上げた。女子たちがオモチャを取り上げられて不服なのか騒いでいるが聞こえないことにしよう。先ほどまで腰を落ち着かせていた定位置に戻り、リコリスが膝上にちょこんと座る。

「似合う? アルビレオ」

 あぁ、とても。
 ささめきごとを交わし、ふたりは笑う。



おはなし、しましょ
(ふたりだけのひみつのかいわ)


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 ショートメール着信。差出人を確認して、思わずため息。

「どうしたの?」

 今から一緒にクエストに参加しようとしていた志乃が俺を伺う。

「……エンデュランスから」
「お誘いメール?」
「……クエスト、参加したいって」
「いいんじゃない? パーティバランス、ちょうど良いし」
「……」

 志乃がそういうなら、とメッセージをとばした。すぐに返信は来た。すぐ向かうそうだ。

「……」
「ハセヲ、彼のこと嫌いなの?」
「……べつに」
「なら、どうしてそんな態度するの」
「……」

 志乃が苦笑する。責めてるわけじゃないのだ。見守るような笑みで、ただ、不思議がってる。そんな志乃だから、言ってしまいそうになる。こんな言い訳じみた、子どものワガママを。

 ――だって、あいつは。俺のこと好きとか、愛してるとか言うけど。一番は『ミア』なんだろ。俺が好きでも、一番特別なのは『猫』なんだ。

 ――ほんと子どもみたいだろうけど俺は、一番じゃなきゃ、嫌だ。一番に想われなきゃ、嫌だ。俺が一番じゃないなら、やめてほしい。

 エンデュランスのあの眼差しが、あの言葉が、あの気持ちが、

 全部、全部、全部、俺にとって、



苦痛以外のなにものでもないんだ。


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「暑い」

 ベッドに腰掛けながら扇風機を独占する亮。まさかクーラーが故障するなんて思いもしなかった。デスクトップ型のパソコンからの吹きでる熱だけで汗だくだ。下敷きで扇ぎながら学校から出された課題をどうにかこなそうとするけど、うだるだけでまったく進まない。

「ゆーいちー」

 間延びした声で呼ぶから、視線を向ける。日差しで眩しく映える白い肌、この家に来る途中で買ったらしい棒アイスが気温と真っ赤な舌に溶かされていく。

「暑くねーの?」
「……そう見える?」
「ないな」

 じゃあ扇風機あたれよ、と軽く君は言う。じっとりとした暑い部屋の空気が巻き起こす人工的な風が亮の黒髪を撫でて首筋や鎖骨を見え隠れさせる。
 ここにきてから一枚脱いでいるので上はタンクトップだけ。服の隙間からオイシそうな胸の飾りも……正直に言おう、かなりムラムラしてる。だからあんまり近づきたくなかったわけだけど、この猛暑に耐えきれそうになくて亮の横に腰を下ろすと少し羽根を調整した。
 そこでふと亮の汗と髪の香りが鼻をかすめてドキッと胸がはねる。ヤバい、襲う。必死にこの暑さと彼の色香からくる理性崩壊に耐えようと必死になる。

「ゆーいち」

 彼の指が輪郭を掴んでむりやり向き直された。そこで突然のキスだ。熱い舌が積極的に入りこみ、冷たい異物を流し込んできた。甘い味と匂いにプッツリ僕のなかで糸が切れる。
 口内で冷たかったアイスはふたりの体温を帯びて、吐息と唾液と絡み合いどろどろに溶け合う。もっと味わいたくて歯茎を丹念に舐めとり角度を幾度となく変えて攻めていると、亮の力がだんだん弱まったのでぐいっとベッドに押し返し僕が覆い被されば形勢逆転。だからといって解放するわけでなくそのまま舌を絡めて、時には音を立て吸いつき噛みつき……存分に反応となかを味わってから唇を離した。端からどちらのものかも区別できない飲みきれなかった唾液をこぼしながら亮が睨んでくる。挑発的なその目を僕もなけなしの理性で見据えた。

「……」
「……暑いんだから煽らないでよ」
「汗かいたほうが涼しいぜ」
「……えっ、故意に誘ってたの?」
「お前がそういう目してるのに手ぇだしてこねぇから」

 そう言うと膝で僕自身を刺激してきた。思わず顔をしかめると反対に亮はにんまり笑う。

「暑さで、頭茹だってんのかも」




だからちょーだい。
(腕を首裏に伸ばしてきた君に)(誘われるようにまたキスひとつ)


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 離ればなれになっていた。

――あの頃R:1からずっとずっと、一緒だったハズなのに。

 トモダチ、と言ってくれた、ダイスキダヨ、と笑ってくれた、優しい表情でボクの名前を呼んでくれた、キミ。

 壊され眠りにつかされたボクは不快感で目覚めた。まったくなにも分からないまま『力』が暴走していく。この猛威を奮うのは嫌だった。この『力』は大切なトモダチを傷つけたから。

 しかし抗えぬ事も出来ぬまま『力』が放たれる――その後のことは、覚えていない。

 自由となってただ、トモダチを捜し続けた。あの子は何処に? ……早く、早く会いたい。

 長く感じられた月日は流れ、彷徨い続ける中で君をようやく見つけた。

 もう『カタチ』の形成できないボクは君の中に溶け込む。それが唯一、キミと共にいられる術だったから。

―『   』―

 名を呼んでも、キミには届かない。

『世界』を放浪し続けるキミ。昔のように笑うことはなかった。無気力なキミは痛々しくてツラかった。でもキミはボクを望んでて、ボクを捜して て、嬉しかった。

―『   』、ボクはいるよ。キミと共に。だから『   』、気づいて ―

 きっとキミだから、いつか気がついてくれる。
 根拠のない確信。でも『予感』はあった。
 それ以上に、キミとの絆を信じてるから……――。
 ボクはキミの中に留まり続けた。居心地のいい、まるで昔のように隣にいた時と同じような感覚。

 しかし、いつしか『アレ』と出遭った。

 泡のように溢れながらキミに近づいてくる『アレ』。危険を感じた。この黒い『穴』に。
 ボクと同じ、得体の知れないデータ。しかしボクとはまた違った、怖ろしいデータ。『カタチ』を模さない、リアルを持たないボクには分からないはずの、皮膚の粟立つ感覚。危険だ。この異質なモノは。

―『   』! 逃げるんだ!! ―

 通ずることのない言葉――分かっていても、叫ばずにはいられない。
 流れ込んでくる『アレ』。キモチワルイっ――キモチワルイ!

― ボクに……、『   』に、入ってくるなぁッ!! ―

 足掻くボクを、キツく拘束する。『アレ』は侵食を深める。まるで隅々まで調べあげるように充ちていく。

― ヤメロ…ッ! ヤメロォォっ!! ―

『アレ』は誘発的に『力』の暴走を起こした。
 いけない。また『   』を傷つける。抑えようと抗うが、『アレ』は思い通りにはさせてくれない。
 その最中、ボクはフッ――と、感じ取った。あの子の中にいたボクにはあの子の感情が流れ込んでくる。――あろうことか、『   』は『アレ』を嬉々として受け入れたのだ。
 両手を広げ、昔のように柔和な微笑みを携えて、なにもいない宙に向かって、『   』にしか見えていない存在を呼んだ。

「み、あ」

 ボクの名前――それは、ボクに向けられてはいない。

 もう 抗うことは できなかった 。

『アレ』に沈み、溺れる。『力』が、自分の意思とは関係なしに、また解き放たれる。そしてボクの意思は、掻き消され――沈ム。

 時々、不快感で目が覚める。それは『力』が使われる時。暴走していく自分。終われば、『アレ』にまた、呑まれる。『アレ』によって形成された“猫”をボクの名で呼ぶ。

― ……ねぇ……『   』……ボクは、ここに…… ―

「ミア、……君はどうしたい……?」

― 違う、ボクはここだ、それはボクじゃない……!! ―


 気がつかない。『   』は気づかない。


偽りの猫ボク』を見つけてしまった。『偽りの幸せ』に溺れてしまった。

 もうボクには、気づけない。

― 気がついて。お願いだ、『   』……『エルク』……ッ!! ―

 沈んでいく。キミの中に。

『アレ』に埋もれて。

 沈んでいく。



最果てない、絶望に抱かれて。
因子として彷徨い、ようやくエルク(エンデュランス)を探し当ててPCに定着。それからしばらくしてAIDAに感染し、その反動で開眼。……なんて流れをミア(マハ)視点で。


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*独白


「俺、オーヴァンの手、好きだった」

 骨ばった指が髪や頬を撫でてくれる、大きくて暖かい手。

「その手に踊らされてたって知ったときは、ショックだった」

 俺を殺すこともできた手。たくさんの誰かを傷つけた手。

「でも、救おうともしていた」

 どんなに汚しても、大事な妹を救おうとしていた手。

「……本当はさ、知ってたんだよ」

 知ってたんだよ。知ってたんだ、だけど、だけど。

「俺は、あの手にすがってばかりだった」



あの手は、俺に助けを求めてた
(『Welcome to The World』)(初めて出会ったとき)(差し出された手の、真意)
ハセヲはオーヴァンにとっての道具であり、希望。本当の意味で手を差し伸べられたかったのはオーヴァンであってすがるしかなかったんではないかなぁと。


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