離ればなれになっていた。
――あの頃からずっとずっと、一緒だったハズなのに。
トモダチ、と言ってくれた、ダイスキダヨ、と笑ってくれた、優しい表情でボクの名前を呼んでくれた、キミ。
壊され眠りにつかされたボクは不快感で目覚めた。まったくなにも分からないまま『力』が暴走していく。この猛威を奮うのは嫌だった。この『力』は大切なトモダチを傷つけたから。
しかし抗えぬ事も出来ぬまま『力』が放たれる――その後のことは、覚えていない。
自由となってただ、トモダチを捜し続けた。あの子は何処に? ……早く、早く会いたい。
長く感じられた月日は流れ、彷徨い続ける中で君をようやく見つけた。
もう『カタチ』の形成できないボクは君の中に溶け込む。それが唯一、キミと共にいられる術だったから。
―『 』―
名を呼んでも、キミには届かない。
『世界』を放浪し続けるキミ。昔のように笑うことはなかった。無気力なキミは痛々しくてツラかった。でもキミはボクを望んでて、ボクを捜して
て、嬉しかった。
―『 』、ボクはいるよ。キミと共に。だから『 』、気づいて ―
きっとキミだから、いつか気がついてくれる。
根拠のない確信。でも『予感』はあった。
それ以上に、キミとの絆を信じてるから……――。
ボクはキミの中に留まり続けた。居心地のいい、まるで昔のように隣にいた時と同じような感覚。
しかし、いつしか『アレ』と出遭った。
泡のように溢れながらキミに近づいてくる『アレ』。危険を感じた。この黒い『穴』に。
ボクと同じ、得体の知れないデータ。しかしボクとはまた違った、怖ろしいデータ。『カタチ』を模さない、リアルを持たないボクには分からないはずの、皮膚の粟立つ感覚。危険だ。この異質なモノは。
―『 』! 逃げるんだ!! ―
通ずることのない言葉――分かっていても、叫ばずにはいられない。
流れ込んでくる『アレ』。キモチワルイっ――キモチワルイ!
― ボクに……、『 』に、入ってくるなぁッ!! ―
足掻くボクを、キツく拘束する。『アレ』は侵食を深める。まるで隅々まで調べあげるように充ちていく。
― ヤメロ…ッ! ヤメロォォっ!! ―
『アレ』は誘発的に『力』の暴走を起こした。
いけない。また『 』を傷つける。抑えようと抗うが、『アレ』は思い通りにはさせてくれない。
その最中、ボクはフッ――と、感じ取った。あの子の中にいたボクにはあの子の感情が流れ込んでくる。――あろうことか、『 』は『アレ』を嬉々として受け入れたのだ。
両手を広げ、昔のように柔和な微笑みを携えて、なにもいない宙に向かって、『 』にしか見えていない存在を呼んだ。
「み、あ」
ボクの名前――それは、ボクに向けられてはいない。
もう 抗うことは できなかった 。
『アレ』に沈み、溺れる。『力』が、自分の意思とは関係なしに、また解き放たれる。そしてボクの意思は、掻き消され――沈ム。
時々、不快感で目が覚める。それは『力』が使われる時。暴走していく自分。終われば、『アレ』にまた、呑まれる。『アレ』によって形成された“猫”をボクの名で呼ぶ。
― ……ねぇ……『 』……ボクは、ここに…… ―
「ミア、……君はどうしたい……?」
― 違う、ボクはここだ、それはボクじゃない……!! ―
気がつかない。『 』は気づかない。
『偽りの猫』を見つけてしまった。『偽りの幸せ』に溺れてしまった。
もうボクには、気づけない。
― 気がついて。お願いだ、『 』……『エルク』……ッ!! ―
沈んでいく。キミの中に。
『アレ』に埋もれて。
沈んでいく。
最果てない、絶望に抱かれて。
因子として彷徨い、ようやくエルク(エンデュランス)を探し当ててPCに定着。それからしばらくしてAIDAに感染し、その反動で開眼。……なんて流れをミア(マハ)視点で。