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君はもういないのに
更新:2007/05/11
修正:2009/11/29
「ありがとう」

 その言葉の真意に戦慄し、あえなくコントローラーを落としそうになった。

 周囲リアルのことなど気にもとめず、大声で叫ぶ。

「碧!」

 だが彼女の視線は今、対等する相手――三爪痕に向けられる。

「碧! 碧!! 碧いぃぃッ!!」

 踏み越えていけないと思いながらも、アダマスは前へ出る。碧と三爪痕が剣を交えている舞台へ。カホがそれに気がついて手を伸ばすも宙を掻き無意味に終わる。

「時は満ちた」

 決意を見せる薄ら笑みをこぼして、碧は続ける。

「さあ、私に真の死を――」

 高らかに宣言すると、彼女は自らの身体に躊躇いもなく深々と愛刀を突き刺した。

「っ……――!!」

 アダマスにはそれが一つ一つ、まるでスローモーションにかかったかのように鮮明に映る。

 彼女の元へ形振り構わず走る自分も、
 そのあとを懸命に追いかけてくるカホも、
 このゲームではあるはずもない血を滴らす碧も、

 空中で右手を掲げ、表情ひとつ変えずそこに存在し続ける三爪痕さえも。

「……――」

 放たれ怒涛と流れ込んでくる光の波。あるいは渦に侵される。そんな目が眩むなか、アダマスは確かに見てしまった。

 三爪痕に微笑む、碧を……――

「――――」



『あれは…恋なのかな』
『え?』
『まぁ……生まれたばっかりだったから、そんな感情じゃなかったのかもしれない。……"期待"だったのかも』
『? どういう事?』
『ふふふ。乙女の秘密……、なんてね』



 いつかの独白。そう言ってふくみ笑いのまま誤魔化されたのを思い出す。

 ――長い、とは言えないのはわかっている。でもこの世界で一番、碧と共にいて……向き合い続けてきたのは自分だ、と自負していた。

 それは自惚れだったのだ。

 君の最後は、笑顔は、僕に向けられない。

 彼は、君の"期待"――"望み"を叶える?

 僕は君の"望み"を知らない。
 僕には"望み"を叶える力がない。

 無力――今更、気がついた事ではなかった現実。
 それはアダマスの心をかき乱して追い打ちをかけるように重く、のしかかった。

 CC社によるメンテナンスは始り、後に世界はまた開かれる――絶望を深く根づかせて。





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小説のアダマスSideみたいな感じなイメージ。

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