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不意打ちな、再会だった。
更新:2010/03/31
修正:2010/05/23




「無影閃斬ッ!」

 素早く距離をつめての連続斬りに、中型のモンスターは倒れた。その瞬間バトルフィールドは収束され、立つのは個性的なくるりと後ろ髪を巻いた、緑色の斬刀士ひとりだけ。

「……」

 彼は青白い光に包まれながら――回復を済ませているのだろう――また森の奥深くへ進んでいってしまう。
 困ったことになった、と頭を抱えているのは月の樹の六番隊の長である私こと槐……の正確にはプレイヤー。このエリアにたむろしているという、な らず者たちの暗殺を命じられやってきたのだが。まさか、彼を見つけてしまうとは思いもしなかった。
 彼の名前はシラバス。私が槐でなかった頃、とてもお世話になった人。
 槐となってから連絡を取ることも、ましてや顔を合わせることもなく、まだこのゲームを続けている――ということだけをアリーナでの活躍などで知 るのみだった。PKが集団で潜んでいるこのエリアで、彼はひとり最終目標――獣神殿に向かっている。傍らに相棒である魔導士の姿も見受けられない。 いくら前線に立てる斬刀士の彼でもソロなんて危険すぎる、とわかっているのに声がかけられずその姿を追いつつ後方に忍んでいる自分。

 私は彼を知っているが彼は槐を知らない。それ以前に暗殺という行為に手を染めている私は、彼の前に胸をはって堂々と立つことができなかった。
 事情を話せばきっとシラバスはわかってくれる――なんて虫の良い話。甘えてる。……本当に彼はわかってくれる、だけどそれじゃいけないんだ。わき起こる胸の内の痛みと葛藤を抱えながら、彼の後を追おうとした。もう獣神殿は目と鼻の先。これで彼がオカリナを使用して、無事エリアから離脱し たのを見届けられればあとは私がPKたちを探りだして任務を遂行し、終わり。
 またお別れ、は寂しいけど一目会えて……相変わらずそうで、嬉しかった。
 そう感傷にひたっていて、気を取られてしまっていた――隙は一瞬、それだけで充分。バトルフィールドの展開。

「!!」

 辺りを見回せばプレイヤーに囲まれていた。数は六人。察しはつく――このエリアに居座るという、PKたちだ。

「ようこそ、俺たちのエリアに」

 ひとりのPKは重刀をチェーンソーのように唸らせながら下劣に笑った。
 俺たちのエリア? 月の樹やケストレルの足下にも及ばない、比較対象にもなりはしない弱小ギルドが専用エリアを与えられるわけもなく、勝手に居着いただけのこと。なのにはっきりと宣言してみせるとは身勝手極まりない。

「呪療士がひとりなんて、めっずらしー。もしかして強ぇの?」
「こっち六人で囲んでボコれは終わりっしょ」
「はっ!言えてるかもww」

 全員で大口をあけ嘲笑する。相手には月の樹の槐とも、職業が錬装士とも気がつかれていないのは幸いだ。
 しかし暗殺――気づかれず始末する、ということに失敗してしまったのが気を重くする。
 うまくできない。うまくやれない。まだ、まだまだ、がんばれていない。

 私は、未だに七星むかしのまま。

 そう思うと情けなくて――でも、今はそんなこと考えている暇はない。反省は任務を終わらせてからだ。閃光のエフェクトに包まれながら愛用の杖を 取り出し、柄を握りしめて相手を見据える。

「おう、やる気じゃ〜ん。後悔するぜぇ」
「無謀ってどういうことかを、ちゃーんと教えてやるし」

 各々が凶器を取り出し、いつでも襲いかかれるようにPK独特のこの行為を楽しみたいだけの、暗い色が存分に露わにする目をギラつかせながら構える。
 一度、身を隠して再度暗殺の機会を伺うべきと判断。ならば今は杖に仕込まれた剣を晒すことなく逃げることが、良策。

 ――はたして、できるだろうか。

 そんなわき起こる一抹の不安を跳ね除けてやらなければいけない。

 ――せめて、彼がいてくれたら。

 私は月の樹の槐。昔と決別し変わらなければいけない。だからそんな弱音は吐けない。

 ……いけない、のに。

「なにやってるんだ!」

 心の望んだあの知る人の声がして、胸のなかを、暖かい春先のようなそよ風がするりするり、ぬけた。

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