……データでしかないオレがそんなもの感じるわけがないのにそれほどこのデータは自分にとってかけがえのないモノであり、これにより様々なもの を知ることができた。
「……楚#」
データは光と文字を帯びて再構築されカタチを成す。双剣士である『楚良』の姿に。
「…………楚#……?」
名を呼んでも反応がない。無様な姿を見られて「ざまぁみろ」などと嗤われるものだと思っていたのに。頬に触れて顔をのぞき込む。――その眼に、 光はなかった。自分を犠牲にしてまでデータドレインから守ったというのに一部が破損したらしい。
強大だったのだ、そしてオレ自身が甘く見すぎた。光輝く子を、あの腕輪の所有者を。怒り、落胆、苛立ち――人間ならそう表すであろう混じりあっ た感情が、溢れていく。それに反するように身体の構築データは徐々に分散され欠けていく。
……どう足掻いたところで死の恐怖の役目は終った。だからなにを感じようと意味はないのだろう……そう理解して虚しくなる。
しかし感慨にふけてる時間はない。手遅れになる前に波は海へ還ろう。母にでなく、
自己データを凝縮、凍結。いち早く海へ戻した。いつかまたそのデータはオレとは違う『カタチ』で意志を持つ日がくる……そんな気がしてならない から。
そうなってもきっと楚良を――『三崎 亮』を求めるだろう。だからオレを深く刻み込んでもらえるように『死の恐怖』らしい、もっとも凶暴なそれ を遺そう。
亮のデータ、心地よかった――……
壊れた楚良の耳元でそう囁いても音声データとして変換されることはなく、全ては無へ還っていく。見つけるから、この
それまでは――ばいばい。
Tschuss.
(じゃあな。また、いつか)