NOVEL  >>  Short story  >>  短編 

Tschuss.
執筆:2009/10/31
更新:2009/10/31
 もとのカタチが形成できず保存領域内に残っている最小限のデータを読み込んだ。カラーリングは体躯を白く、赤髪に紅眼……とまったく元のデータ である双剣士と異なっているわけだが、長くは保たないのだからどうだっていい。不自然に崩れる身体のグラフィックに腕を突っ込み体内から引きずり 出せばその瞬間に、虚脱感。
 ……データでしかないオレがそんなもの感じるわけがないのにそれほどこのデータは自分にとってかけがえのないモノであり、これにより様々なもの を知ることができた。
 死の恐怖オレには必要性などないものだったのに、興味を抱き、大切にしまいこんでしま った。後悔こそしていないが母は煙たがったものだ――人間のように、世界を認識しはじめたオレを。

「……楚#」

 データは光と文字を帯びて再構築されカタチを成す。双剣士である『楚良』の姿に。

「…………楚#……?」

 名を呼んでも反応がない。無様な姿を見られて「ざまぁみろ」などと嗤われるものだと思っていたのに。頬に触れて顔をのぞき込む。――その眼に、 光はなかった。自分を犠牲にしてまでデータドレインから守ったというのに一部が破損したらしい。
 強大だったのだ、そしてオレ自身が甘く見すぎた。光輝く子を、あの腕輪の所有者を。怒り、落胆、苛立ち――人間ならそう表すであろう混じりあっ た感情が、溢れていく。それに反するように身体の構築データは徐々に分散され欠けていく。
 ……どう足掻いたところで死の恐怖の役目は終った。だからなにを感じようと意味はないのだろう……そう理解して虚しくなる。
 しかし感慨にふけてる時間はない。手遅れになる前に波は海へ還ろう。母にでなく、データへと。
 自己データを凝縮、凍結。いち早く海へ戻した。いつかまたそのデータはオレとは違う『カタチ』で意志を持つ日がくる……そんな気がしてならない から。
 そうなってもきっと楚良を――『三崎 亮』を求めるだろう。だからオレを深く刻み込んでもらえるように『死の恐怖』らしい、もっとも凶暴なそれ を遺そう。

 亮のデータ、心地よかった――……

 壊れた楚良の耳元でそう囁いても音声データとして変換されることはなく、全ては無へ還っていく。見つけるから、この海原ネットの何処にいようと。

 それまでは――ばいばい。



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スケ→ハセ書いたつもりがスケ→楚良になって総合的にスケ→亮。
取り込まれてた楚良(三崎)が記憶無くしながらも帰還できたのはスケィスくんのおかげなんだよ、という妄想。

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