グランホエールに帰還したトキオはなりふり構わず駆けた。ホール内にいたPCたちが驚き、呆気に取られているのに目もくれずただひたすらに。
探し人たちはショップモール内にまちまちと点在していて、トキオは注意をひくために声を張り上げる。ホールの見知った顔がトキオに向けられた。
「どうしたの、トキオ」
「カイトッ、あの、いいい今、い、いたんだ……ッ!」
「いた?」
身振り手振りだけで内容の読めないジェスチャーで混乱している様子だけは伝えてくるトキオ。近くにいたカイトがいまいち状況の飲めないままだが、なだめようとする。
「少年、落ち着けって」
その後ろから顔を覗かせたのは、黒髪の片眼鏡の男。シックザール団長のフリューゲルは飴を舐めながらゆったりとした口調でトキオを諭す。
「こん、こんな事態に落ち着いてられるかよ!」
「まぁまぁほら、深呼吸。ひっひっふー、ひっひっふー」
「産まれるぅっ、ってお約束かつ余裕だなオッサン!!」
「驚いたさ」
くわえていた飴を音を立て噛み砕き「あれが本物だと仮定するなら」とその一言でおちゃらけた雰囲気を払拭させ、眼光鋭く遠くを見つめるフリューゲルにトキオは口をつぐんだ。漫才をはじめてノリツッコミはいつものトキオだが、フリューゲルの様子が少しおかしいことに室内の数人はすぐに気がついていた。ホール内のざわめきが少しだけ大きくなった。興味を持つもの、失ったもの、無関係だと決めつけるもの。このグランホエールに乗船する黄昏の騎士団たちはそれぞれの反応を見せている。
「どういうこと。なにがあったの?」
カイトが再び問う。トキオは説明する言葉を選んでいるのか口ごもってしまったため、フリューゲルが続けた。
「アカシャ盤の岩戸のなかで膨大なデータが検知されて、俺と少年で調査してきた」
岩戸。そこはかつて女神が己を幽閉した場所。緊迫した表情で息を飲むのがそれぞれの人と人の間で伝播する。
「特にアカシャ盤自体に異常はなく、岩戸にたどり着いた。内部に異常も見られなかったが……」
「……いたんだ」
トキオが小さく呟く。
声はぴたりとやんだ。誰も『誰が?』などと問わなかった。そんなはずはない、という抵抗。もしかしたら、という期待。それらが入り混じり喉に声を張り付かせる。
「あれは……たぶん……アウラだ」
その言葉に、刹那、その場にいた全員が息することを忘れた。
《プロローグ》
(冒頭。序幕)(おとぎ話の主人公は、)
・
・
・