D.C.-ダ・カーポ- 出会い編1
雨は空が泣いてるから降るんだ。
更新:2007/04/08
修正:2009/08/22
雨は空が泣いてるから降るんだ。
着いたのはある大学。もう高校も休みに入り、オープンキャンパスを開催している此処へと同級生に強制連行された。
「(これぐらい一人で行けよ……)」
内心毒づく亮。もう高校二年生というのもあり、どこの大学を受けるか早くに考えているのは良いことだと思う。しかし興味もない大学の見学会に時間を取られるのは堪ったものじゃない。
いつも通りであれば『The World』にログインしている時間帯。休みはほぼソレに時間を割くつもりであり、予定……という日常を崩されて機嫌が悪い。それもこれも――巨大MMOであるソレをプレイしていることは絶対秘密なので他の理由で断ろうと思ったが
「最近付き合いが悪い」とブーイングを受け、無闇に勘繰られるのを避けたかったので仕方が無くつきあった結果だ。そして今日は生憎の雨。二乗効果で気分がすこぶる害されていた。
「あ〜……受付ってどこだろ?」
「……人に聞けば」
「それもそうか。……あの、すみません〜!」
いかにもしかめっ面で不機嫌そうに答えてやるが、気がつく気配がない。これはある種のイジメだ、とそんな事を思ってるとは露知らず……脳天気な声で前から歩って来る在学生らしき人物に声をかけた。青い傘でよく顔は見えないがかなり背丈が高いのはわかる。通常の男性平均よりははるかに高いというずば抜けたモノだが……亮の興味がそれだけのことで続くわけはなく『俺には関係ない』と言い張るようにすぐに視線をそらした。
「高校生? 見学かな?」
「はい、そうで〜す」
「受付は来客者玄関のすぐ先に看板が出てるんで、わかると思うよ。でももうすぐ始まるはずだから急いだほうがいいかも」
「げ、そうッスか。あーさず! 三崎、行こうぜ」!
げ、ってお前……時間把握ぐらいしとけっての!
頭に鈍痛が響きだしてきたのを感じつつも「……はいはい……」とため息混じりで返事をして歩き出し――礼儀として大学生の横を過ぎる時に「ありがとうごさいました」と頭を軽く下げた。指示された玄関に到着し、傘の水滴を払いながら、同級生が何を思ったかひそひそと話しかけてきた。
「さっきの人、男なのにけっこう可愛い顔してた……」
「……そうか?」
見てねぇから知らねぇし、と思惟しつつ乱暴に傘をふる。
「背も高けぇけど……なんか幼いカンジ」
「……なに、お前、ロリ好き?」
「ぐぇっ! だ、断じて違っ……」
冗談と皮肉を込めて言ってやったが、どうやら図星だったようで見るからに慌ふためいている。どうにかこじつけて潔白を証明しようとしているがだか、亮にはまったく関心がないのでそのまま話を流すことにした。
「はいはい…ほら、先行け。遅れるぞ」
「……そ、そうだな……よし! 三崎! 俺に続けぇ!!」
「はっ!?……おい!」
まるで脱兎のごとく走りだし外履きを脱いで『受付はこちら』という看板の矢印方面へ姿を消した。
「……面接でも試験でも、むしろ書類審査の時点で問答無用に落とされるぞ。馬鹿。つかもう落ちてこい。いや、もう落ちてくれ。俺が願う……ったく……帰ってやろうか……」
一人になって思わず本音を漏らす亮。それでも放っておけるわけがなく、傘を綺麗にたたみ終えから向かおうとして――ふと、視線に気がついた。
「……?」
まだ先ほどと同じ場所にある、長身。道を尋ねた際に答えてくれた在学生だ。距離は開いているので先ほどの話が聞こえたわけではないはず。
なのにこちらを見つめるようにただぼーっと立っている。訝しく思いはしたが気にすることじゃない、と終わらせてさっさと踵を返し走り去った『馬鹿』に追いつこうとすれば――
「ハセヲ……!」
「ッ?!」
それは耳から脳みそに駆け巡り身体の細胞全体に響いていくような――驚き、なんて言葉じゃ言い表せないほどの衝撃の。それに動かされるままに振り返ってみれば「あ、え……本当に……?」と呼んだ本人が動揺している。小走りで近寄ってきた人物が傘を下ろすと、顔がハッキリと映せた。
「――……」
“ハセヲ”のPC名を知る者は、少ない。彼と共にしかThe Worldにはいないのだ。彼が都合のつかない日はソロプレイが基本。その他のPCとはPTを組んだ事は一度としてない。
目の前の人物を凝視する――級友が言った通り、まだどこか幼さが残る顔――それはどことなく“彼”に似ていた。
「………カイ……ト?」
“彼”の名を呼ぶとそれが間違いではないことを肯定するように、微笑んだ。
「………『はじめまして』……って言うのもなんだか変な話だね」
その照れた控え目な笑い方も、ゲームの中のカイトそのまま。
雨はまだ降り続いていた。それは小さな時に聞いた話。雨は空が泣いてるから降るんだって。その時は素直に――あの雨は俺たち二人が出会った事への喜びの涙――なんて恥ずかしげもなく、思ったんだ。
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