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D.C.-ダ・カーポ- 出会い編2
それはとても甘い、苦しみ。
更新:2007/04/09
修正:2010/02/16

「…………」
「…………」

 お互い沈黙が続いていた。

 亮はカイト(のプレイヤー)を凝視したまま身動き一つしなくなり、カイトは相手にまったく反応のないことで先ほどの発言に自信をなくしたのか少しオドオドと瞳を泳がせる。

「……ハセヲ……?」

 無言に耐えかね場の雰囲気をどうにかしたかったのか、あるいは亮が『彼』であることの再確認か、カイトはもう一つの名を呼ぶ。

「……――――」

 今まで瞬きすら躊躇していたように停止していた亮が弾け跳ぶように相手の腕を掴み、そのままの勢いで走り出した。「え?」と戸惑う声を上げるカイトであったがそれでも合わせるように足を速めてくれた。
 この敷地の土地勘なんてものなくとも目指すはひと気のない校舎の裏、建物の影で急停止。図書館らしき風景の広がる部屋があるが窓辺付近で勉学、もしくは読書に勤しむ学生の姿は見受けられない。そこで亮はいきなり向き直り、腕を掴んだ時同様に勢いよく――むしろ加減ができていないのか半ば抱きつくように詰め寄った。その反動でカイトは傘を落とし、後ろによたったが塗装のはがれかかっている校舎のゴツゴツとした壁によって支えられる。

「…………ほ、ほんもの?」

 亮の第一声はマヌケなほど力ない疑問だった。
 顔を上げもせず、表情が見えないが雨の中でまったく足元を気にすることなく走り続けたせいで靴は泥で汚れ、跳ね返りでズボンの裾もグチャグチャに濡れていたにも関わらず気にした声ではない。間違いではなかったと安心したのか、ホッと一息をはきだすカイト。

「うん」
「……マジで?」
「昨日一緒に行ったエリアのワードとか、その奥地の獣神殿の宝箱にあった武器の名前とかそのあと大聖堂でしゃべった内容なんて詳しく話せば、ぼくがあの“双剣士の『カイト』”だって信じてくれる?」

 半信半疑と感情がにじみ出ているが、ようやくその言葉に頭の整理が開始しされたのか亮も詰めていた息を大きくはいた。

「何で……俺が『あのハセヲ』だなんて分かったんだ?」
「うーん……なんとなく……雰囲気? ハセヲのリアルってこんな感じじゃないかな、とちょうど想像してたらハセヲの声で『ありがとう』なんて言われて」
「そ、そ、んなんで……声かけたのかよ」

 半ばどもりながら質問を投げかけてくるのに反して掴む力は強まり――その肌から緊張しているのが伝わってきて――カイトは掴まれていない反対の手で彼の手を包み込むように、安心させるように添えた。

「うん。君が此処にもいる、なんて感じたら嬉しくなって……確信があったわけじゃなかったのに直感的に……『ぼくがハセヲを間違えるわけ無い』と思ったら声が出てた」

「自意識過剰かな」と苦笑交じりの諭すような優しい声色を聞き、数秒の間をおいて腕は離されて、亮は崩れ落ちるようにその場にしゃがみこんだ。よく見ると、耳が真っ赤。どうやらプライドの高いハセヲは顔が赤くなっているのをそれで隠しているつもりらしい、とカイトが理解するのに時間はかからなかった。

 思わず笑ってしまえば、睨まれる。ハセヲに容姿は近くとも違うのにその威嚇するような視線は彼そのものに感じて、そんな眼差しにも『やっとこっちを向いてくれた』と喜んでいる自分がいることに呆れ半分に笑う。そうすれば悪循環なことにさらに亮は機嫌を悪くしていく。

「なに笑ってんだよ!」
「いや、別に……ふふっ」
「っ……てか……なんでそんなに……背、デカいんだよっ。PCは小せぇくせにッ!!」

 今のカイト優勢な空気が気に入らないのか、今言える最高の嫌味であるのだろうそれを面と向かってつきつけた。亮は背が低い方ではないが、目の前にいるカイトの身長は頭一個分強程は確実に高い。だがまったく気にしたふうもなくカイトは「あぁPC作ったのは中学の時だからね。あの時は平均よりだいぶ低かったからだよ。それから伸びだしたけど」とけろりと大人の対応でかわしてしまう。むしろ嫌味などと気づいていない口ぶりで亮を落胆させた。加えて「あぁ、本物のカイトだ」とそれで改めて納得する。

「それにしたって……お前……細すぎだろ。手首も俺の指が余るし、身体だって華奢っていうか……骨ばってる感じじゃねぇか」
「……そ、そうかな。あはは……あ、そういえばあの……友達は?」

 軽く引きつった笑いにヘンに誤魔化されたと感じつつ、自分の状況に思わずハッとなって、ケータイを開いた。どれも同じ名前からの着信履歴が四件。あぁどうするかな、あの馬鹿は放っといても支障はないだろうけどあとが煩わしそうだ。と頭の片隅で酷いことを考えつつカイトに視線を向けた。ばっちり視線を合うと彼は反射的になのか癖なのかはにかむ。The Worldでも『カイト』と同じように。

 コール音が鳴り響いる間、なんだかこの出来事が嘘のように感じた。しかしその癖を持つ目の前の人物、それから今まで回していた手に残る温もり。これらによって「これは現実なんだ」と教えられ、すべての感情がシェイクされたように溶け合って胸の奥で暴れ荒れている感覚に苦しくなっていった。












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