NOVEL  >>  Long story  >>  D.C. 出会い編3
D.C.-ダ・カーポ- 出会い編3
暖かい日差しが心地よくこの世界を照らしている
更新:2007/04/10
修正:2010/02/26

『なぁ、心細いんだから早く来てくれよ』

 いつもより断然言葉数少なくかつぼそぼそしゃべる級友から察するに、もう始まる頃合いだから周囲が静かなのだろう。辺りの空気が読めているのはいいことだが、ならメールにすればいいのにとため息。
今はそっちに気を回す余裕が亮にはない。

「そのことなんだけど悪ぃ、用事ができたからそっちに合流できない」
『えっ、マジかよ。オレ一人で見学して来いって? 勘弁してくれ』
「男なんだからそれぐらい頑張れ」
『ひでぇ、男女差別だ、言葉のDVだ……!』
「お前少しは男としてのプライドというか度量を上げようという気はないのか……あとで埋め合わせをするから」
『嫌だ、そんなもんいらん! 亮ちゃん、 頼むよ……一生のお願いだよ!』
「この数年間でまさるちゃんは一生を何度使い果たしたか覚えるか?」
『かたいこと気にすんなよ!! 俺とお前の仲だろ、な?! 友情を無下に扱うなんてサイテ―だぞッ!!』

 最後にはいつも通り軽く叫びだした彼に「……落ちろ」と呪いの言葉を残してケータイを切った。

「ったく……」
「大丈夫なの?」
「あぁ、話しはついた」

 カイトもさすがに最後の言葉を聞いたからか納得しかねているような表情を見せたが、それほど気にないことにしたらしく「そっか」と合槌を打つ。これで安心してカイトと話しができる、と思ったのも束の間……手の内でケータイが小刻みに震えた。
 またかけてきやがるか、と画面を睨みつけた亮の表情は一瞬にして崩れる。浅くため息をつくと「悪い、ちょっと」とカイトに一言断りをいれ、少しぎこちない動作で通話ボタンを押した。

「もしもし……なに?」

 特に変わったところのない、自然な声に違和感を覚え「うん」「そう」「わかった」と言葉短くしか反応しない彼の言動をカイトは見逃さず見つめていた。通話を終えると、また浅くため息。

「なにかあったの?」
「いや、別に」
「『ハセヲ』と一緒。一瞬目細めて怪訝そうな顔しつつため息なんてする時はなんか無理している」
「……」

 そんなとこまで見られてたかと思うと嬉しくもあり、気恥ずかしさもあった。
 亮もカイトの癖などを把握しているのでお互いがお互いで相手を理解しているということも気恥かしさを上乗せする。

「母さんから。出張になったって。『一人になるけど気をつけてね』だとさ」
「え……ハセヲ……家で一人?」
「父さんの出張とかぶるから、まぁそうなる。よくあるから気にすんな」
「……」
「そんなことより、カイ「ハセヲ」

 話題をを変えようとしたが、真剣な顔つきで呼ばれて反射的に口をつぐむ。不満足そうに見つめてくる仕草も、口調も、全てがあの『カイト』だった。その実年齢より幼く見える顔は引き締まると凛々しさをにじませ、思わず見とれてしまう亮。

「……出張、どれぐらい?」
「……え? あ……たしか、えーと、一週間……」
「じゃあ、ご両親帰ってくるまでぼくの家に泊まりにきなよ」
 流れのまま「あ……ああ」と生返事。言葉の意味を咀嚼して、味わって、飲み込んで、数秒。

あ゙ぁ?!

 我に返り「と、泊まり?!」と聞き返す。自分でも驚くほどの阿呆さ加減に肌から熱が蒸気していくのを感じて、穴があってもなくても掘って潜り込んで埋まりたい気分に襲われる。

「あ、もしかして親がうるさいとか?」
「いや、そういうんじゃねぇけどッ!」
「……あぁ……そうだよね、今日会ったばっかりだし」

 悲しそうに視線を落としたカイトを見つめていたら『しょんぼり』とたれ下がる獣耳の幻想が見え、亮は「自分、重症」と悦に浸るような、同時に敗北感というか、なんとも言えない胸の内を自ら感じ取ってしまって軽く泣きたい気分だった。

「ちげぇよ! それはない! 絶対!!」

 キッパリと否定が出たのは本心だったからで、後悔することはない。驚いただけで嫌なわけではないのだ。それこそ『今日オフで会ったばかり』の人間を『自宅に泊まりに来い』と誘うものだから理解するのに数秒要するほど、突拍子もない事件に頭が回らない、というのが本音のところ。

「本当? じゃあ決まりだね」
「ゔっ……」

 これを墓穴を掘ったというんだろうか、と悩んでみる亮。掘って潜り込んで埋まりたい、とか思っていたのは自分の墓を掘ってたのかなんて納得もしてみる。「まいったな」と視線を向ければ、微笑みながら腕を引くカイトは嬉しそうに今後の話をしていて。
楽しそうなその笑顔を見ていたら、亮も自然と笑みがこぼれてきたので「まぁいいか」といろいろ考えるのはやめにした。

雨はもう止んで――










NOVEL  >>  Long story  >>  D.C. 出会い編3
暖かい日差しが心地よくこの世界を照らしている Copyright (c) 2010 .Endzero all rights reserved.