「カイト」
「なに?」
カイトは振り向きもせず、目の前を動きまわるチムチムを見ている。追いかけないカイトにチムチムたちは何故だか犬や猫が懐くように近づいてきていた。
「……ばーか」
「!」
そんな可愛らしいチムチムをハセヲは難なく蹴り飛ばした。一斉に逃げ惑うチムチムたち。
「何するんだよ、ハセ……」
非難しようと振り向けば頬にキス。驚いて軽く言葉を失うカイト。ムスっとしたまま機嫌悪そうに目を細めるハセヲの顔をただ見つめた。
「こっち見ろよ。馬鹿」
眉間にシワを寄せつつ彼は走り出し、チムチムを一匹高く蹴り上げた。「もとから蹴るためにいるNPCを蹴って何が悪い」などと小さな文句も聞こえてくる。少し唖然として固まっていたが自然と笑いが溢れた。妬くなんて思ってもなかった。彼のいう『もとから蹴るためにいるNPC』であるチムチムに……
―― 違う ――
「――……」
……違うや。
彼は“ぼく”が好きな訳じゃない。彼は“ぼく”が憎たらしいんだ。
彼は……彼の中にいる【スケィス】は僕を殺そうとしている。
七年前にぼくが【スケィス】をデータドレインしたように。
【スケイス】は“ぼく”を覚えている。【スケィス】は“ぼく”を殺す機会を狙っている。【スケィス】は『腕輪の加護』を受けた僕に『死の恐怖』を見せるだろう。……いや『見せてくれるだろう』。
君に手によって殺されるなら、君は長い間“ぼく”を覚えててくれるだろう。それだけがぼくの救いになる。
ぼくは『憎悪』と『愛慕』って紙一重だと思うんだ。君は『憎しみ心』を『愛しむ心』を勘違いしてるんだよ。
そうなんだ、きっと……きっと。
疑問は……『期待』は、尽きない。
ハセヲ。こんなふうにしか考えられないぼくを……君は哀れむかい?
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悲しい。哀しい。愛しい。全部『かなしい』と読む。
ハセヲからすれば『愛しい蒼炎』だと良いと思う。
ハセヲからすれば『愛しい蒼炎』だと良いと思う。