NOVEL  >>  Short story  >>  ペルソナ4 

全ての事物は代替が可能であり、物語は全て同じ場所に行き着く。
執筆:2012/10/20
更新:2013/03/13
前回の設定の足主♀で『もし足立さんが犯人にならなかったらこういう結末を迎えるかもしれない』という可能性の話。
※死ネタあり。花村さんが相当ヒドい扱いを受けているためご注意ください。その他にも嘔吐描写も少し。













「ねぇ、『マヨナカテレビ』って知ってる?」

 ベットのなかで心地の良い倦怠感に身を委ねていた私に、足立さんが唐突にそう問いかけてきた。

 知ってるも何も、それは私のなかに深く刻まれている傷のひとつだ。
 

「……」
「噂はいろいろあるらしいけど、雨の日の夜0時にひとりでテレビを見ると運命の相手が映るとか……そういうの好きだよね、高校生の女の子って」

「……その話、どこから?」
「あくまで噂だから、出所なんて確かめようがないっしょー。まぁ僕は噂好きの清掃のおばちゃんから最近聞いた話だけど」

 そう言うとさっさと足立さんはお風呂場に向かってしまった。ひとり取り残された私は背中に冷たいものが触れたように身震いする。唾が上手く飲み込めないほどの緊張。

 マヨナカテレビ。それは2011年の猟奇的連続殺人事件に深く関係してた。
 でも『この2011年』では起こらなかった。私が犯人を……ことの発端として暗躍した人物を止めたからだ。私は稲羽市で進級し、3年生になった。雨が降り続く日には相変わらず霧が出たが……マヨナカテレビの噂は去年囁かれることがなかった。
 それが今さら、なぜ……?

 時計を確認する。そろそろ0時になろうとしていた。それを見て足立さんはなんとなくその噂を口にしたのだろう。私はブランケットを手繰り寄せて身を包み、カーテンを少しだけ開けて外を見た。
 星も月も見えない空からはしとしとと雨がこぼれている。噂が本当なら、もしかすると。
 窓から離れ、テレビの前に立った。時間まで静かに待つ。

 ――真っ暗な画面に、私が映っている。いや、反射して私が見えるだけだ。私はそれを凝視しつつげていたが、いつの間にか0時が1分過ぎても、2分が過ぎても……5分経っても、画面は黒いまま。そこでやっと喉元に詰まった重くて苦しい息を吐き切ることができる。

「……やっぱり好きなんだ、そーゆーの」

 足立さんはいつの間にかお風呂から上がっていて、壁に身を預けて立っていた。どうやら私を観察していたらしい。
 ……うわ、恥ずかしい……。


 マヨナカテレビは映らなかった。なにも起こらないということへの安心感。そして少しの失望。
 あの頃への……『今までの2011年』への未練は未だに拭えていない。愛おしい時間を私は捨てきれずにいる……しかし今の私は、それを持って前へ進もうと決心していた。今では仲間たちとはそれなりに上手くやっていけている。充実した日々を一日一日過ごしている。
 幸せだった。足立さんも傍にいて、仲間たちとも青春を送れる、幸福を噛みしめていた。


 だからこそ、気づけなかった――間違い。


 それを知ることになるのは、その夜が明けた学校の放課後だった。



***



「……」

 就業のチャイムが鳴って、教室は一斉にざわめきに包まれる。私は教科書をカバンにしまうと、すぐにメールを確認した。新着はなし。
 八十神高校3年のこの教室に、ひとつの空席。そこに座っているはずの人物にCDを返そうとしていたのに、今日は姿を現していない。それどころかメールすら返信をよこさない状態だ。

 どうしたんだろ、陽介。

 朝のHRのときにメールを出したのだが、放課後になってもこないなんて、よほど体調が悪いのか、それとも何らかの形でケータイを失くしたか……複数の選択肢を考える。あまりリアルラックのないことが認知されている陽介なので、正直いろいろな可能性が出てきた。どれも推測の域を出ないのだけれど。

「オーッス」
「! 里中……」
「やっと今日も終わったねー。疲れたー」
「そうだね」

 授業が終わり、千枝と雪子がカバンを持ってこちらの席までやってくる。進級してもまた私たち4人は同じクラスになれた。

「そういや今日花村休みだね。珍しい」
「メールも返ってこないから、相当ヒドいのかも」
「花村くんが倒れるぐらい厄介な風邪なんて、治ってもしばらく家に閉じこもってて欲しいね」
「ちょ、雪子それは花村があまりにも……いや、確かに感染されたらたまったもんじゃないけど……そうそう、これから雪子と一緒にジュネス寄ってこうと思ってるんだけど、キミもどう?」

 雪子が悪気なく笑顔でサラリとそんなセリフ吐いて、千枝がフォローするようで追撃する、そんな会話。その話し相手に私が混じれている幸せは、慎ましいが何事にも代えがたい。そんなことを感じていた、その時。突如学校のチャイムが鳴り……

『先生方にお知らせします。只今より、緊急職員会議を行いますので至急、職員室までお戻りください。また全校生徒は各自教室に戻り、指示があるまで下校しないでください』

 アナウンスが流れた。
 
 そして外から聞こえる――パトカーのサイレン。
 
 なんか事件? すっげ近くね、サイレン? クッソ、なんも見えね。なんだよ、この霧――窓辺に駆け寄った男子が興奮気味に呟いた。

 授業から解放された教室はその放送とただならぬサイレンを聞いてさらに騒然としていた……のに、すぐに教室がシンっと静まりかえる。目の前にいた千枝と雪子が目を丸くしていた。
 なぜって、私が勢いよく立ちあがったせいで、椅子がひっくり返ってしまったから。しかしそんなことに構っていられるような状況ではない。
 だってこの一連の流れを私は知っていたから。そして――何度も立ち会っているから。

 クラスの目も気にせず、カバンも持たず、私は走って教室から飛び出す。
 そんなはずはないと、自分のなかに生まれていた"可能性"の芽を潰すため、ただ無心に足を動かした。

 しかし、全力疾走で廊下をわけ目も振らず駆けて、階段を落っこちるような勢いで下り、生徒も教師もいない玄関を抜けたところで無情にもまたチャイムが鳴る。

『全校生徒にお知らせします。学区内で、事件が発生しました。通学路に警察官が動員されています。出来るだけ保護者の方と連絡を取り……』

 そのアナウンスによって、"可能性"の芽は"確信"へと開花した。
 いや、まだ決まったわけじゃない。そんなはずない。そうやって否定を重ねていくが、身体は正直なもので、恐怖で足が止まりそうになっていた。歯を強く食いしばって校門を駆け抜ける。


 その"確信"の心当たりの場所にたどり着いた。住宅街の片隅には人だかりはまだまばらだが、確実にその場所は異様な空気を持っている。辺りは集まった数台のパトカーで道を塞がれ、境界線として張られた黄色い『KEEP OUT』の進入禁止テープ。穏やかな時の流れる稲羽市に不釣り合いなもの。
 息を整えるよりも早く、空を見上げた。いや、空よりは低い、民家のアンテナを凝視する。

 そこにある"モノ"は、高さが故に警察や消防も苦戦しているのかブルーシートに包まれることなく、まだその身を霧の下に晒したままだった。
 ある"モノ"、それはアンテナに吊り下がる……人間。


 そうであるとは、思っていた。
 そうでなければいいな、と願っていた。
 2011年に起こるはずだった事件と同じことが、1年遅れで目の前に再現されるなんて。
 "確信"は"現実"となったのだ。

 ……しかし"現実"はある一点において"確信"を大きく裏切っていた。


「…………う……そ、だ……」

 思わず声がもれる。
 信じたくない光景。信じられるはずない現実。信じられない自分がいた。

 そこに吊るされていたのは、一年前に浮気騒動でワイドショーをにぎわせたアナウンサーなどではなくて……よく見知った――友の顔だ。


「……は……は、な……む……ら?」


 なんで、そこに陽介の顔がある? わからない。
 なんで、陽介が吊るされている? わからない。
 なんで? なんで、なんでなんでなんでッ!? わからない!わからないわからないわからない……!!

「……はな、む、……ら……は、な…………う、うそ、でしょ、う、そだよ、ね……っ、よ……よーす、け……よー……すけ……っ」

 呂律も思考もじょじょに回らなくなっていって、カチカチと耳障りな音がする。自分の歯の根が合わず震えている音だ。目の前が明暗を繰り返す。視界がグラグラ揺れる。せり上がる悪寒、それと胃からの不快感。早鐘を打つ心拍数と同じタイミングで頭に走る鈍い痛み。身体が痙攣してくの字に折れ、その場で膝をついた。

「……――っおい、大丈夫!?」
「くそっ、あの校長……! ここは通すなって言ったのに……!!」

 身体に触れてきた熱に思わずすがる。口から流れ出す物は止まらない。なのに『助けて』――そんな数文字の言葉すら上手く出てこなくて、指先に力を込める。
 まだ明暗する視界がぐにゃぐにゃと暴れていて、光の屈折により眩暈で朦朧としてきた。口の中に広がる酸っぱさと臭い、それから同時に興奮した動物のようなうめき声と浅く早い吐息が耳に障る。

――世界は、あらかじめ決められた結末に収束する――
――もしその結末を捻じ曲げようとするなら、世界は姿そのものを変えてしまう――
――……けれど、過程を変更しようとそれが結末に影響がないようであれば――
――その差異を持ってして強引にでも結末へと流れていくものらしい――

 頭のなかに反響する声が私を諭すように語りかけてくる。
 それはある雨の日、いつかの――今かもしれないし、1回目かもしれない、曖昧な記憶でしかないが確かなことは『2011年』の雨の日に――ある人に言われた言葉だ。

――だから忘れてはいけないよ――
――何事も選択する時は、自分に責任を持たないといけない――
――そして、変わってしまった現実を見据えなければいけない――
――受け入れるかどうかは、別にしてね――

 私が……過程を変えた。それは未来を変えるには至らない修整で、事件は時間こそずれたが起こってしまった。……だから、なのか?
 だから足立さんは犯人ではなくなり、別の人間が犯行に及んだ?
 だから山野アナは生きて、陽介が死んだ?

 だから、それはつまり――私が陽介を、殺したということじゃないか。




全ての事物は代替が可能であり、物語はどうであれ全て同じ場所に行き着く
(意識が闇に堕ちていくなか、ある人とは誰だっただろうかと思い出そうとするが無駄だった……けど)(その声と言葉だけは、嫌に耳に残っていた)

 今のままの設定で上記に書いた足主♀を続けていくと、きっとハッピーエンドになると思ったので、「シュ○インズゲートや戯○シリーズを知っている者としてはこういうの一本書いておかないと!」と常々思っていたので……思わず夜更かしして書きました……。
 山野アナは死ななかったが、別の誰かが死ぬことによってまた事件が始まってしまう、そんなルートに入ってしまった主♀の話。
 犯人は決まっていて、救いはないと思われる。自分的にはメリーバットエンド。けっこうオリジナル入ってしまう予定です。

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