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RAGNAROK
女神と、口堅き逃亡者
執筆:2011/07/02
更新:2011/07/05

 グランホエール内に侵入者がいる、とちっちゃい豚――トキ☆ランディとかいうやつが言い出して騒がしかったけど、興味がなかったから無視していた。次に陰険そうな呪紋使いの司が、アレを連れて現れたから、もうひと波乱起こった。
 アレに会うのも、騒がしいのも嫌であたしは、艦内から降りた。
 ……第三者的に見れば、逃げ出したという表現が正しい。

 なのに、なんでアレはあたしの前にいるんだろう。
 眉間のあたりがズキズキ痛い。不快。待ち伏せされたのかなとか思うけど、タウンをうろうろしていたら物陰から出てきた。目があった瞬間、アレも驚いた表情を浮かべたから、たぶんそれはない。
 アレはやっぱり綺麗だ。昔と変わらない姿。陰にいてもアレは自身が光の集合体かのように、存在を浮き彫り立たせる。桜色の唇から記憶と違わない甘ったるい声がもれて、イライラした。
 構いたくなくて身を翻して歩き出す。やめてほしい。アレは呪いだ。真っ白な美しい、悪魔。
 放っといてほしいのに、後ろをついてくる気配がある。足を早めても、まだいる。止まると、一緒に止まる。首だけで振り向いたらギョッとした。紫の大きな瞳があたしを見上げてる。光で形成されたかのような白い指があたしのスカートの裾を小さく握っていた。色素を知らないかのような白い指があたしに触れている。

 反射的にそれを振り払った。

 アレは大きな大きな目をそれ以上に見開いた。そして――笑う。ちょっとだけ苦しそうに。

 牽制するように睨みつけて、歩き出す。見なかったことにするように。なにもかも知らないと、決め込んで。

「うわーっ、変わったPCがいる!!」

 背後から聞こえた声。タウンだから人通りが少ないところにいても、少ないだけ。人は面白さを求めて鼻を利かせているのだ。変わったPCというのは、きっとアレのことだと振り向かなくてもわかった。これでアレを引き留めていてくれれば、ついてこないだろう。それでいい。

 ――本当にそれでいいのか。

 足が止まった。歩くことを一瞬忘れて、棒立ちになる。一歩が進めなくなる。
 あたしは逃げてばかりじゃないか。臭いものには蓋をする。見たくない物からは目をそらす。そうしてきた。向き合わず、また逃げるのか。ソラと出会って、アレと逃げて、わかったじゃないか。理解したはずじゃないか。行動することは難しいけど、行動しないのはバカだ。あたしは、バカが一番嫌い。そしてあたしはバカだ。あたしはあたしが嫌い。でも愚かにはなりたくない。

 振り返った。アレは集まったPCたちに囲まれてる。その中であたしを見ていた。ただ、見ていた。
 助けて、とも言わない。こっちをみて、あたしと視線が絡むと、笑う。あたしの視界の片隅にでも映れたこと自体が嬉しいと言うかのように、笑顔で存分に表現する。

 イライラした。
 ……違う、胸がじくじく痛むんだ。

 アレがあたしを呼ばないから。

「アウラ」

 なら名前、あたしが呼ぶよ。

「アウラ、おいで」

 手を伸ばす。ドキドキした。じくじくした。苦しいし、清々しい。アレは、アウラは、目玉が落ちるんじゃないかってほど目を見開いた。

 そしてやっぱり笑う。

「カール……!!」

 呆気にとられてるPCたちの輪を出て、駆ってくる。そしてあたしの手を握る。純白に輝く肌。これが怖くて恐ろしい。だって、あたしといたら汚れてしまうかもしれないじゃないか。この真っ白な少女を昔みたいに暴言のゴミ箱にしてしまうかもしれない。
 なじっても貶しても、あたしとは違って、とても清らかな女の子。どう接していいかわからない。手を握ったけど、これからどうすればいいかわからない。
 こういう時って、視線を同じにするべきなんだろうけど、あたしはしなかった。ただ、髪をぐしゃぐしゃにするように頭を撫でた。力加減なんてわからない。なにをすればいいかわからないんだから、その詳細なんて考えなしだ。
 ただ、あたしがもし純粋だった頃に父親に会えていたら――同じことをされたかったから。

 乱暴なあたしを非難するわけでもなく、瞳を細め、口元をほころばせる。少しだけ、頬に赤みが差してる。愛らしい少女。愛されるために生まれてきたはずの、少女。
 とりあえず歩き出せば、この手に引かれて歩き出す。かける言葉はない。あたしの言葉はナイフみたいに誰かを傷つけようとするから、しゃべらない方がいい。
 逆にあのお菓子みたいに甘い声でかけてくる言葉も、なかった。

 それは少しだけ、心地いい。



女神と、口堅き亡者
(ふと、昔のザ・ワールドを思い出す。あの頃の悪意を注ぐ日々)(それを今はまだ、語らない。あたしが、ソラが、この子が、知っていればいいから)









なにがしたいか、と問われればアウラさまをみんなに愛して欲しいという願望により形成されてます長編です。つまり愛でる以外にテーマは特にないということ←
それぞれの人のアウラへの接し方、愛し方を書いていければいいなと思っております。

カールを書いているときは(自分なりにカールという人物を想像してみてその)考えがすんなり出てきてくれるので、非常に書きやすい。……逆を言えばオリジナルへいきやすいってことだけど……うーん、はやくZEROの続刊でろ←

カールには不器用ながらもアウラを気にしてほしいのです。これが彼女なりの接し方。
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