「……やっと来たか」
扉を開けた瞬間、飛んできたものは腕。
「やっと来たか。まったく……待ちくたびれたよ」
そこに立つよく知っている人物。かつて所属していたギルドのマスター。楽しかったひと時を共有していた、何より信じていた、数少ない一人。
「……オーヴァン」
「……まぁ、その間に一匹、始末できたけどね」
「……何……?」
そこに横たわるのは、三爪痕。腕も足も頭も、胴体からは切断された憐れもない無残な姿。
「……」
オーヴァンが何か語っているのがわかる。しかし何を言っているかは聞こえない。耳に伝わっているはずが、それを理解しようとしない思考回路。ただ目に焼きつくのは。
かつて血眼に追い求めたソレの腕。
……――――。
何かが放たれようとした。もがいて掴み取ろうとするも対象が特定できない。しかし求める、何かを必死に。……いつの日かの……――。
鳴り響いた銃声に、意識は現実に切り替わる。オーヴァンが切断されたソレの頭を、躊躇いもなく撃ったのだ。
「――――」
弾けるデータを見下ろし、言葉は失せた。視界は白に染められる。しかしそんなものは刹那の刻。今、自分自身の中に波のように押し寄せるモノは
――荒れ狂う、苦しみ。
「オォォォヴァァァンっ!!」
がむしゃらに双剣を構え、斬りかかる。亀裂が生じたように歪む視界。苦しい。ただ苦しい。何故? ……わからない。
……わからない? ――本当に?
『 ――― 』
誰、だ……?
『 ――ヲ 』
誰だ……俺を、呼んでいるのは?
『 ハセヲ。―――。―してる 』
霧が晴れていく。ゆっくりと確実に。
『 ハセヲ。大好き。愛してる 』
現れたそのヴィジョンに目を瞠った。――それが隙となり攻撃を真向から受け、吹き飛ばされる。脳味噌が無分別に掻き混ぜられた気がした。混じり雑ざって引出された答えは何もない。こんな時には目前のことに集中するべき、そうわかっているのに一度生み出された混乱は収まらない。
どうして、
『さようなら』
―― !!
続いていくヴィジョン。また染まるは白。しかし今度は頭の隅で、霧は完全に取り払われた。
「……」
あぁ……俺は……
目の前には三爪痕の残骸。手を伸ばし――崩れたデータを握りしめた。
「……カイ……ト……」
俺はお前を知っていた。此処で『出会った』と記憶しているより前から、出逢っていた
『ハセヲ。大好き。愛してる。――君の記憶を改竄するよ』
最後の言葉。理解できなかった。
―― さようなら ――
そのまま目映い光に貫かれ、Lv1に初期化された俺は放心状態でさまよい、PKされ……オーヴァンと出会う。
「……俺は忘れていたんだ」
『違うよ。ぼくが、記憶を直したんだ』
「っ!!」
そこにあるのは朽果てたデータの塊でしかない……でも確かにさっきの声はカイトだった。
「あ……、あ、あ、あ゛ぁああぁあァァっっ!!」
それは同じ事だ。『有った』のに『無かった』と記憶したのだから。ゴメン、カイト。……ごめん……
腕も足をも失っても、痛くなんてない。痛んでも、心以上には痛まない。でも、こんなもの、カイトの傷みに比べたらちっぽけすぎる。
「あ゛ぁ゛あぁぁぁぁああっ!!」
ひとりぼっちにしてごめん。カイト、……カイト。
この怒りは
愚かな俺に対しての…激昂。
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