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蒼と赫の邂逅
激昂
更新:2007/01/05
修正:2009/07/10

『 Δ 隠されし 禁断の 聖域 』


「……やっと来たか」

 扉を開けた瞬間、飛んできたものは腕。

「やっと来たか。まったく……待ちくたびれたよ」

 そこに立つよく知っている人物。かつて所属していたギルドのマスター。楽しかったひと時を共有していた、何より信じていた、数少ない一人。

「……オーヴァン」
「……まぁ、その間に一匹、始末できたけどね」
「……何……?」

 そこに横たわるのは、三爪痕。腕も足も頭も、胴体からは切断された憐れもない無残な姿。

「……」

 オーヴァンが何か語っているのがわかる。しかし何を言っているかは聞こえない。耳に伝わっているはずが、それを理解しようとしない思考回路。ただ目に焼きつくのは。

 かつて血眼に追い求めたソレの腕。

 ……――――。

 何かが放たれようとした。もがいて掴み取ろうとするも対象が特定できない。しかし求める、何かを必死に。……いつの日かの……――。

 鳴り響いた銃声に、意識は現実に切り替わる。オーヴァンが切断されたソレの頭を、躊躇いもなく撃ったのだ。

「――――」

 弾けるデータを見下ろし、言葉は失せた。視界は白に染められる。しかしそんなものは刹那の刻。今、自分自身の中に波のように押し寄せるモノは
――荒れ狂う、苦しみ。

「オォォォヴァァァンっ!!」

 がむしゃらに双剣を構え、斬りかかる。亀裂が生じたように歪む視界。苦しい。ただ苦しい。何故? ……わからない。

 ……わからない? ――本当に?

『 ――― 』

 誰、だ……?

『 ――ヲ 』

 誰だ……俺を、呼んでいるのは?

『 ハセヲ。―――。―してる 』

 霧が晴れていく。ゆっくりと確実に。

『 ハセヲ。大好き。愛してる 』

 現れたそのヴィジョンに目を瞠った。――それが隙となり攻撃を真向から受け、吹き飛ばされる。脳味噌が無分別に掻き混ぜられた気がした。混じり雑ざって引出された答えは何もない。こんな時には目前のことに集中するべき、そうわかっているのに一度生み出された混乱は収まらない。

 どうして、蒼炎のカイトヤツが……?!

『さようなら』

 ―― !!

 続いていくヴィジョン。また染まるは白。しかし今度は頭の隅で、霧は完全に取り払われた。

「……」

 あぁ……俺は……

 目の前には三爪痕の残骸。手を伸ばし――崩れたデータを握りしめた。

「……カイ……ト……」

 俺はお前を知っていた。此処で『出会った』と記憶しているより前から、出逢っていた

『ハセヲ。大好き。愛してる。――君の記憶を改竄するよ』

 最後の言葉。理解できなかった。

―― さようなら ――

 そのまま目映い光に貫かれ、Lv1に初期化された俺は放心状態でさまよい、PKされ……オーヴァンと出会う。

「……俺は忘れていたんだ」
『違うよ。ぼくが、記憶を直したんだ』
「っ!!」

 そこにあるのは朽果てたデータの塊でしかない……でも確かにさっきの声はカイトだった。

「あ……、あ、あ、あ゛ぁああぁあァァっっ!!」

 それは同じ事だ。『有った』のに『無かった』と記憶したのだから。ゴメン、カイト。……ごめん……

 腕も足をも失っても、痛くなんてない。痛んでも、心以上には痛まない。でも、こんなもの、カイトの傷みに比べたらちっぽけすぎる。

「あ゛ぁ゛あぁぁぁぁああっ!!」

 ひとりぼっちにしてごめん。カイト、……カイト。

 この怒りは目の前の敵オーヴァンに対してではなく
 愚かな俺に対しての…激昂。







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