カイトにメールで呼び出され、この場に来たハセヲは困惑するしかなかった。
「傍にいてくれてありがとう。愛してくれてありがとう。僕は君と共にいた記憶は宝物だよ。でも、君にある
それも無理はなく……別れを告げようとしている――それぐらいしかハセヲの理解は追いついてなかった。
「……スケィスは僕を殺したいんだ。仕方がないよ。昔の因縁があるから……ハセヲ。大好き。愛してる。――君の記憶を改竄するよ」
右手を掲げれば浮かび上がり展開する異形の紋。残酷な優しい光。
「さようなら」
貫く光。一瞬である絶望の刻。
「――――ッ!!」
歪んでいくグラフィック。それだけでなく表情も、苦しそうに崩れる。時間が増すごとに目の焦点はズレていった。声という声は喘ぐような吐息のみ。ただそれを見つめているカイト。動かない……、動けない。彼は震えていた。ただ見つめる。少しずつ壊れていくハセヲを、最後の姿を。そんな今にも崩れ落ちそうなハセヲが、まどろむ視線が、彼をとらえた。
「――……」
「……カ……ぃ……ト」
おぼつかない足取りで一歩を踏み出せば片足のグラフィックは完全に崩壊――必然的にハセヲは倒れこむかたちとなり――とっさにカイトも一歩を踏み出す。それを待っていたかのようにハセヲは腕輪を発動した右手を引き、包みこむように抱き寄せた。
「――――!」
「……い……やだ……かい……と……か……ぃ……ぉ……!」
戦慄くカイト。抱きしめる腕の温もりと強さが自分の行いを責める。自分自身が怒鳴り、そして絶叫した。
「……か……いと…ぁ……ぃ……し……て……る」
それは小さな最後の叫び。今までのどんな愛の囁きより響くセリフだった。同時に彼の身体は内側から爆発したように光に満ち、剥き出しとなったデータが……世界に還っていく。
――ハセヲはいなくなった。少なくともこのダンジョンからは。
「……」
そこでボロボロと涙が流れていく。今更の後悔。懺悔するように膝をつく。ハセヲが今の今まで“居た”その場をぼやける眼で見つめる。
「アウラ、やっぱり無理だった。ぼくだけが覚えているなんて。彼がもう覚えていない、なんて」
はっきりと告げるその声は悲痛の色を色濃く残すも、誰にも届かない。
「この腕輪を誰かにあげて。そしてぼくをデータドレインして。記憶だけじゃなく、ぼくの意思も全て。……未帰還者になったって構わない、よ。……お願い……お願いだ、アウラ……!……アウラぁ……ッ!!」
吼えた。思いのままに。しかし何も起きない。
此処は「隠されし 禁断の 聖域」――
グリーマ・レーヴ大聖堂。
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