フィールドでLv上げしているのが運の尽き。PKの初心者狩り……しかも相手は六人。どうやってったところで無理は目に見えてる。寄ってたかって恐怖を煽りながらキルされ『弱い』と罵声を浴びせ嗤うPK共。
それを狙ってるクセに。これはゲームだとわかっているのがやけに腹がたつ。初心者じゃなかったら、強くなったら全員返り討ちにしてやるのに――と思ってる自分に嫌気がさした。リアルじゃ澄ましてる自分の腹の底が少し垣間見えた気がしたから。『ただのゲーム』――そう割り切ってさっさとログアウトしようとした、そんな時……誰もが耳を塞ぎたくなるようにハウリング音。乱れるグラフィック、たじろぐPKたち。俺は一人『おばけ』の空を見上げた。
なんとなく、世界が驚喜した――なんて感じて。
静まりかえった刹那、空が崩れ、何かが落ちてくる。青い……いや、それは蒼い炎。炎に抱かれてゆっくり落下してくる、PC。
そいつが目を開いたと同時に炎が消えさり、蒼碧の瞳が漂わすように周りを見渡す。変ったボディだ。翠色の髪、朱い服、それと同色の大きな帽子、手には三又に分かれた剣を二本。双剣士、なのは辛うじて読み取れた。しかし見たことがない型。
「なんだ…っ!?」
ザワザワ騒ぐPK共。新手のモンスター、
そんななか、そいつは俺を見た。無表情だった顔がみるみる内に驚き、怒り、そして悲しそうに翳る。の方に近づいて来た――が、後ろからPKに攻撃される。そいつは難なく片方の剣で払いのけた。するりと体勢を立て直し双剣を構え向きあう。
「仲間呼べっ! コイツ、強ぇっ!!」
重剣士が我鳴るともう一撃――剣を振るうがまたしても簡単に防がれ、反撃をそいつが繰り出した……が、
「はぁっ?!」
息を吐くより敏速に、灰色のPCになり果てた……瞬く間にHPが0まで削られたのだ! それを見てうろたえるPK共。しかしそれ以上に繰り出した本人の動揺が後ろからでも見て取れた。
ファリプメイン! ……そう唱えると俺の色は戻っている。蘇生スキルだったのか、と把捉するよりいち早く俺の手首を掴み走り出す――後ろから聞こえる悪口雑言は視界を蒼い炎に包まれていくごとに遠く小さく、収束していった。
視界がはれ気がつくと日が暮れ――いや……フィールドが変わっているようだった。見渡せばそこは見たこともない、聖堂のような場所。普通のエリアとは違うグラフィックが佇んでいる。目の前には腕を掴んだままのそいつは居た。ゆっくり指をほどきつつ振り向き、安心したように微笑みかけてくる。ドキッとした。夕焼けに交じる朱いそいつ。儚くて、でもどこか今日見た空と同じ印象を持った。なぜだろう、心配そうに近づいて来るその姿も、背が俺より低いせいで見上げられるその眼差しも、頼りないのに、大きく見えるのだ。
「……あの…大丈夫?」
その視線を直視できす、早鐘打つ心臓がうるさい。それらを悟られないようにだんまりしてしまう自分も恥ずかしかった。
「ごめんなさい。勝手に移動してしまって」
なにも言わない俺に頭を下げる。PC上の外見は子どもなのだが落ち着きがある。だが大人のように突き放した落ち着きではなく、気遣い溢れる、従容さが垣間見えた。
「ぼくは、カイト」
自己紹介するそいつ、カイトはうっすらはにかんだ。また心臓が別の生き物のように胸の奥で大きく跳ねる。
これが俺たちの初めて出会い。
そして俺が『カイト』と言うPCに一目惚れした日。
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