NOVEL  >>  Long story  >>  終日はすぐそこに。
終日はすぐそこに。
暮れ続ける夕焼け
執筆:2011/04/14
更新:2011/05/12


「今さら、領地を荒らしてる異物を追い出しに来たの?」

 もう何時間も瓦礫の山を騒々しく漁るクビアを見つめる影があった。それは異質な外見をしたPC――このネットスラムの女王、ヘルバだ。

「此処はネットスラム。いつだって、誰でもっても歓迎するわ」
「なら、なに?何か用?」
「見届けたいだけ。ヒトとAIの繋がりを。それを断ち切った後のことも、含めてね」

 女王は笑う。
 表情は読み取れない。ただ何かを含ませた笑みを、こぼす。
 クビアは腕を止めることなく目だけで女王を見て、作業を続けていた。


「悪趣味」
「この庭を荒らすのもいい趣味とは言えないな」
「うるさい」
「ふふ……ねぇ、坊や」
「……」


 ヘルバは唐突に、穏やかさの中に深意を隠して囁いた。クビアは反応を返さないず手を動かし続ける。


「このネットスラムが好きかしら?」


 山を崩す手が、ピタリと止まった。彼は眉間にシワをよせ、ゆっくり『めんどくさい』と全身で言いたげな緩慢な動きでヘルバを見据えた。そしてはっきりと呟く。

「どうだっていいだろ」

 ヘルバはまた笑い、いつもの腰を折る動作をすると転送エフェクトのリングに包まれながら消えていった。
 それでもどこかで監視――正確には観察を続けているに違いない、とクビアは舌打ちするも気にしても仕方がないと開き直って作業を続行する。

ポーン……――
 どれくらい経ったのちに、電子音が頭の中心部から響き渡った。『お目当てのモノ』も見つけることに成功し、改造。それを持ち物に追加、顔を上げた。

そこにはネットスラムの変わらず美しい夕暮れ色に染まり続けている空が広がっている。
 クビアは唇を一文字につぐんだまま――また呼び出しの催促がかかるまで――身動きひとつせず、名残惜しむかのようにただ見上げていた。



暮れ続ける赤い空
(終わらない黄昏)(彼の眼にるのは、)






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